原判決を破棄し、乙山医師の注意義務違反を認める
一審及び二審(原審、大阪高等裁判所)では、ともに乙山医師の(1)~(3)の注意義務違反をいずれも否定し、夏子らの請求を棄却した。
このうち、(3)の退院時の措置については、原審は「新生児、特に未熟児の場合は、核黄疸に限らず、さまざまな致命的疾患に侵される危険を常に有しており、医師が新生児の看護者にそれら全部につき専門的な知識を与えることは不可能と言うべきところ、新生児がこのような疾患に罹患すれば普通食欲の不振等が現れ全身状態が悪くなるのであるから、退院時において特に核黄疸の危険性について注意を喚起し、退院後の療養方法について詳細な説明、指導をするまでの必要はなく、新生児の全身状態に注意し、何かあれば来院するか、他の医師の診察を受けるよう指導すれば足りると言うべき」として、乙山医師に注意義務違反はなかったとした。
夏子らは、これを不服として、上告した。
最高裁は以下のとおり判断して、原判決を破棄し、大阪高等裁判所に差し戻した。
なお、差し戻し後は判決となり、確定している(大阪高裁平成8年12月12日判決、判例時報1603号76頁)。
・退院時の乙山医師の措置に関する原審の判断は是認することができない
・新生児の疾患である核黄疸は、これに罹患すると死にいたる危険が大きく、救命されても治癒不能の脳性麻痺等の後遺症を残すものであり、生後間もない新生児にとってもっとも注意を要する疾患のひとつ
・(核黄疸の原因である)間接ビリルビンの増加は、外形的症状としては黄疸の増強として現れるものであるから、新生児に黄疸が認められる場合には、それが生理的黄疸か、あるいは核黄疸の原因となりうるものかを見きわめるために注意深く全身状態とその経過を観察し、必要に応じて母子間の血液型の検査、血清ビリルビン値の測定などを実施し、生理的黄疸とは言えない疑いがあるときは、観察をよりいっそう慎重かつ頻繁にし、核黄疸についてのプラハの第一期症状が認められたら、時機を逸することなく交換輸血実施の措置をとる必要がある
・未熟児の場合には成熟児に比較して特に慎重な対応が必要である
・(前記の事実関係を前提にすれば)9月30日の時点で退院させることが相当でなかったとは、ただちに言い難いとしても、(中略)産婦人科の専門医である乙山医師としては、退院させることによって自らは夏子の黄疸を観察することができなくなるのであるから、夏子を退院させるにあたって、これを看護する花子らに対し、黄疸が増強することがありうること、及び黄疸が増強して哺乳力の減退などの症状が現れたときは重篤な疾患にいたる危険があることを説明し、黄疸症状を含む全身状態の観察に注意を払い、黄疸の増強や哺乳力の減退などの症状が現れたときは速やかに医師の診察を受けるよう指導すべき注意義務を負っていた
・乙山医師は、夏子の黄疸について特段の言及もしないまま、何か変わったことがあれば医師の診察を受けるようにとの一般的な注意を与えたのみで退院させているのであって、かかる乙山医師の措置は、不適切