本件では、Aの直接の死因、C医師の転送義務違反の過失の有無及び同過失とA死亡との因果関係の有無が争われた。
(1) Aの直接の死因
判決は、Aの直接の死因は、急性心筋梗塞の合併症として発症した心室細動であるとした。
(2) C医師の転送義務違反の過失の有無
判決は、「C医師は血液検査の指示を出した12時39分の時点では、心電図検査の結果及び問診により、Aには急性心筋梗塞に典型的な所見、症状が見られることを把握しており、その所見や症状は、臨床医療上、ほぼ間違いなく急性心筋梗塞に足る程度のものであった」と認定した。
そして、証拠として提出された医学的知見を総合すれば、急性心筋梗塞の最善の治療法は再灌流療法であり、それもできるだけ早期に行うほど救命可能性が高まるから医師が急性心筋梗塞と診断したときには、可能な限り早期に再灌流療法を実施すべきであるとしたうえで、被告病院ではPCI等の再灌流療法は実施できないから、結局のところ、C医師としては12時39分の時点で、再灌流療法を実施することができ、かつ、救急患者の受け入れ態勢がある近隣の専門病院にできるだけ早期にAを転送すべき注意義務を負っていたとした。
そして、B病院に近隣する専門病院に対する調査嘱託の結果も踏まえ、近隣の2つの専門病院は休日に心筋梗塞患者の転送を受け入れており、いずれの病院とも受け入れの条件として血液検査の結果を求めてはいなかったのであるから、C医師が転送要請をすることになんら障害はなかったとしたうえで、それにもかかわらずC医師は12時39分の時点でただちに転送措置をとらず、「13時50分になってようやく転送要請の電話をしたのであって、約70分も転送措置の開始が遅れたことになる。すなわち、この点にC医師の転送義務違反の過失がある」とした。
(3) 因果関係
判決は、まず、「C医師が12時39分にただちに転送措置に着手していれば、Aは13時35分には転送先病院の処置室に運び込まれていたと推認できる」とした。
そのうえで、「急性心筋梗塞患者を受け入れた専門病院としてはPCIが実施されるまでの間、CCUにおいて効果的な不整脈管理がされ、致死的不整脈が発生すれば、速やかに除細動などの救急措置が行われたであろうということができる」として、C医師により転送義務が尽くされていれば、「14時25分に心室細動が発生したのに電気的除細動さえもされないという最悪の事態を避けることができたはずである」とした。
さらに、「発症後12時間以内のST波上昇型の心筋梗塞であれば再灌流療法が有効であること、急性期再灌流療法が積極的に施行されるようになってからは病院に到着した急性心筋梗塞患者の死亡率は10%以下であると見るのが相当であるとして、本件でC医師により転送義務が果たされていれば、Aは無事再灌流療法を受けることができ、90%程度の確率で生存していたと推認できるから、C医師の転送義務の懈怠とAの死亡との間には因果関係が肯定される」とした。