(1)検査方法について
胃がんの検査方法のうち、造影検査は、全体像及び周辺臓器との関連の把握や病変の大きさの計測、穿孔の診断等にすぐれ、画像を複数者で検討することが容易であるが、粘膜面の色調はわからないうえ、経験を積んだ検査医師であっても胃の前後壁が重なって造影されるなど、良い造影画像を撮影するには高度の修練が必要である。
一方、内視鏡検査は粘膜色調の直接観察や拡大観察が可能であり、同時に生検による病理組織学的診断もできるうえ、実施者ごとの診断能力の差異は造影検査ほどではないとされるが、全体像及び周辺臓器との関連の把握等は造影検査よりも劣り、また、検査者の主観に負うところが大きいという特徴を有する。
すなわち両者には一長一短があるが、短所については相互に補完することが可能である。造影検査、内視鏡検査及び生検によって、胃がんの病巣の90%以上は捕捉されるようになっている。
本件造影検査当時、内視鏡検査及び生検は一般に普及した検査方法であった。
(2)医師の判断と指導義務について
平成13年1月13日に撮影された本件立位充盈像及び本件背臥位二重画像の所見から、がんの存在が相当程度強く疑われるところ、Xは受診時に、「胃に不快感がある」、「胃が重い」、「空腹感とともに胃が重苦しく、痛くなる」といった、胃がんの場合に起こりうる症状を訴えていたこと、本件造影検査当時Xは満50歳であり、一般に胃がんの好発年齢と言われる年代であったこと、胃がんは治療開始時の病期が、患者の予後に直結していること、造影検査には一長一短があり内視鏡検査によってその短所を補うことが可能であること、本件造影検査当時、内視鏡検査及び生検は一般に普及した検査方法であったことに鑑みれば、Y医師には、本件造影検査の画像読影後速やかに内視鏡検査及び生検を含む精密検査をすべき義務があり、また、本件造影検査当時、Y医師の医院には内視鏡検査等を行いうる機器がないため、内視鏡検査等を自ら行いえないのであれば、Xに対し、内視鏡検査等を行いうる医療機関を紹介し精密検査を受検するよう指導すべき義務があったと言うべきであり、Y医師には、そのような義務を怠った過失がある。