( 1 )第1手術の術式選択について
ガイドラインでは、前方法と後方法で術式による手術成績には、明確な差はなく、骨化巣切除術か骨化浮上術かの選択は、骨化の程度と術者の経験・技量を踏まえて決定すれば良いとしていること、C医師〔Xの相続人の依頼で意見書を作成〕は骨化浮上法を推奨するが、ガイドラインにおいて、神経根麻痺に関し、骨化浮上術の術後C5麻痺は、67例中6例(9%)に発生したとの報告が記載されており、骨化浮上法であれば脊髄麻痺が発生しないと一般的に言うことはできないこと、B医師は、日本脊髄学会外科認定医であり、第1手術までに100例程度の脊髄外科手術を経験し、前方固定術についての症例を論文で発表している。これらからすると、B医師がXに対する治療法として前方法のひとつである骨化巣切除術を採用したことが不適切であったとまでは言えない。
B医師の前方法の手術はXが2例めであるが、1例めの手術(論文で発表した症例)では症状を改善させており、2例めであることによっては、前記認定判断は左右されない。
( 2 )除圧幅について
B医師は、第1手術において骨化巣を10mmの幅で摘出し、第2手術ではこれを広げてC4で12~13mm、C5で14~15mm、C6で10~11mm、C7で8mmの幅で切除したが、骨化巣は部分的に摘出されたにすぎず、いまだ残存している部分があった。
ガイドラインでは、要約として、骨化巣の大きさや形態が除圧幅の規定因子であるが、除圧幅について20mm以上が目安のひとつであるとしており、その解説部分において、外国の報告で頸椎症性脊髄症に対し15mm幅の椎体切除を行い、合併症を認めなかった報告をひとつ挙げながらも、20mm以上の除圧幅を推奨している報告を5つ挙げ、過去の報告のまとめとして、大部分の報告は20mm以上の除圧幅を推奨しており、症例によっては術前の画像を参考にそれ以上の除圧幅を要するものと考えられるとしている。
ガイドラインは、平成17年に作成されたものであるが、除圧幅に関する部分の基礎となった論文は、本件手術時にすでに発表されていたものであって、ガイドラインはそれをまとめたものにすぎず、本件手術時においても、20mm以上が除圧幅の目安のひとつであったと言うことができる。
もちろん、目安のひとつにすぎないのであるから、何かの理由にもとづいてこれと異なる除圧幅とすることを否定するものではないと考えられるが、B医師が除圧幅を前記のとおりとした理由は、切除した部分にはめ込む人工椎体の幅が13mmであるので、それが入れば除圧幅が狭すぎることはないというものであり、ガイドラインの内容に照らして合理性のある理由とは言い難い。
B医師がXに対し脊髄の分野の権威者として紹介したC医師も、本件手術において切除の幅が骨化巣の幅よりも狭いため、骨化巣の完全切除ではなく多くの部位で骨化巣の両外側端が残る部分切除になっており、除圧術の原則である「全域同時除圧」が順守されていないこと、除圧幅は予想される骨化巣の幅よりも広くする必要があり、本例では20mmが適切であることを指摘している。
以上からするとB医師の本件手術における除圧幅は狭すぎ、不適切であったと言うことができる。