今回は、上記判断の中でも、原審と本判決(控訴審)の判断の分かれ目となった因果関係の認定について解説します。
本件のように適切な措置がなされなかったことによる医療事故においては、医師が措置を行わなかったことについて注意義務違反が認められるとしても、仮に適切な措置を行っていたとすれば、患者の死亡という結果が生じず、救命ができたという高度の蓋然性が認められるか否かという、義務違反と死亡との間の相当因果関係が問題になります。
ここでいう「高度の蓋然性」について、近時の裁判例は、個別の事実経過や鑑定意見、医学統計等も踏まえて、救命率が70%前後であれば「高度の蓋然性」を肯定する傾向にあります。なお、高度の蓋然性の立証が得られなくても、救命し得たであろう相当程度の可能性(おおよそ2割以上の救命率と考えられています)を認め、一部慰謝料等の損害賠償を認める場合もあります。
本件においては、Yらが産科DIC予防のための検査・スコア計測を行い、適時に輸液・輸血等が実施されていたなら、亡Aは救命できたという高度の蓋然性が認められるか否かが問題となりました。
原審は、医師の義務違反を前提にしつつも、仮に義務を履行していたとしても亡Aを救命し得なかったとして因果関係を否定したのに対し、本判決においては、高度の蓋然性を前提とした義務違反と死亡との間の因果関係を肯定しています。
原審と本判決の判断の分かれ目としては、本判決は、亡Aに生じた各症状等から亡Aに羊水塞栓症による救命困難なアナフィラキシーショックが生じたとは認められないとした点、亡Aに羊水塞栓症が発症していたとしても、比較的予後の良いDIC先行型羊水塞栓症であったと考えられること、羊水塞栓症全体の母体死亡率が20%~30%にとどまるという文献の調査結果なども踏まえ、上記の因果関係を肯定したところにあります。