後発白内障に対するレーザー治療は数分で終わり痛みもない手術とされ、費用も高額ではないことから、臨床現場では、後発白内障と診断した患者に、即日レーザー後嚢切開術を実施している例もあるかもしれません。
しかし、簡便で術後に日常生活の支障も目的で訪れたような初診患者に対し、手術を急がせることは、患者が熟考せずに手術を受けてしまい、クレームにつながるリスクがあります。
医師は、即日に手術を実施するか否かについては、さらに丁寧に、患者の年齢、病歴、受診目的、主訴・希望、理解力等を見極め、当該治療にあたり患者が重視する事項についても留意して、個々の患者の事情に応じた説明を行うことが望まれるでしょう。
本件の被告(被控訴人)は、「後発白内障」という病名から患者が白内障の再発と誤解したり、必要以上に不安になるのを避けるため、患者の様子を見て病名を告げないこともあり、本件患者に対しても同じ配慮をしたと主張していました。しかし、裁判所は、特段の事情がない限り病名とその病状と病状を説明すべき義務があると述べています。
また、本件では、説明内容についてのクリティカルパスが作成され、全ての項目にチェックをされており、裁判所は、基本的にこのクリティカルパスに依拠して、実際に説明した内容を認定しました。ここからも、説明内容は書面にして残しておくことが大切といえます。
医療機関内部の文書に残すばかりではなく、患者に説明書を交付して、説明書の内容について口頭で説明し、質問を受けるなどの対話により、患者の理解度を確かめることも、ぜひ行うべきです。そのようなコミュニケーションは、真に患者の自己決定を可能にするインフォームドコンセントの前提となるでしょう。
なお、本来なすべき説明を受けていれば当該治療を患者が受けていなかったであろうと認められる場合には、自己決定権侵害の慰謝料にとどまらず、当該治療の費用、合併症による健康被害の治療費、慰謝料、休業損害等の全損害について、損害賠償責任が認められることがあります。