1 致死的な副作用のある薬剤であってもこれを使用しなければならない場面は多くあることだと思います。
本判決も、アンカロン処方をしたこと(適応)、それ自体について医師の責任を問うているのではありません。
投与中の検査義務の懈怠について責任を問うています。
では、副作用の有無・その程度を探知するための投与中の検査義務の具体的内容はどのように決まるのでしょうか。
基本的には関連する医学的知見(副作用の危険性の程度等)と当該患者の副作用の症状の発現状況・重篤度等によるということになりますが、その際の医学的知見として重視されるのが当該薬剤の添付文書の記載内容です。
最高裁は「医師が医薬品を使用するに当たって右文章〔注:添付文書〕に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである」(平成8年1月23日判決・民集50巻1号1頁)と判示し、過失の有無を判断する際に添付文書の記載内容を重視しています。
本判決はこの最高裁判決を引用していませんが、本判決も、投与中の検査義務の具体的内容を定めるにあたり、アンカロンの当時の添付文書に記載されている「アンカロンを投与する場合は、頻回に患者の状態を観察するとともに、胸部レントゲン検査、臨床検査(略)及び眼科検査を投与前、投与開始1ヶ月後、投与中3ヶ月ごとに行うことが望ましい」との内容を引用しており、添付文書の記載内容を重視していることに変わりはありません。
2 全ての医師が使用する医薬品や医療機器の添付文書をよく読んでいるわけではないと聞き及びます。
また医療機関側代理人の中には上記最高裁判決を強く批判する者もいます。
しかし、上記最高裁判決の判断枠組み自体は用いずとも、過失の有無の判断の際に添付文書の記載内容を重視する姿勢は、本判決を含めほとんどの裁判例に見られるところですので、いま一度使用する医薬品・医療機器の添付文書をぜひご確認ください。