画像におけるがんの見落としが問題となった事案は、これまで多数見られるところだが、その中では画像に写っている異常所見自体を見落としたと主張される事案が多いところ、本件では医師が大腸ポリープの存在を認識してあえて写真撮影を行い、同ポリープが良性のものであると評価していたにもかかわらず、その約3年後に同ポリープががん化したことにつき、当初評価の適否が問題となっている点に特徴がある。
たしかに、結果的には本件ポリープは切除しておくべきであったといえるが、医師の注意義務違反の有無との関係では、結果論から直ちに義務違反が肯定されるものではなく、「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」(最三判昭和57年3月30日判タ468号76頁)に照らして、同水準の医師が当時の状況に身を置いた場合に、ポリープを悪性のものと評価できたか否かという観点から検討される必要がある点に注意を要する。
また、がんについては、部位や進行度合いのほか、時代によっても検査方法や治療方法が異なるため、各事案による個別性が強く、判断要素を一般化することに馴染まない面がある。そのため、各事案に応じた適切な主張立証が求められるが、本判決は、特に平成18年検査時に撮影された本件ポリープの写真画像の分析をもとに、検査担当医師らの過失を否定しており、類似事案の検討においても参考になるだろう。
また、本判決では、腫瘍性ポリープと非腫瘍性ポリープの鑑別が重要であり、その鑑別は、大きさ、形状、色調、表面構造等を総合考慮すべきであるとされているところ、本件ポリープの写真画像の評価に際して、第三者医師に対する調査嘱託の回答を踏まえて検討しているとおり、いかにして適切な画像分析を行うかが問題であるといえる。