1. ラジオ波焼灼術(RFA)は、穿刺局所療法の一つであり、腫瘍内に穿刺した電極周囲をラジオ波(周波数約450kHzの高周波)により誘電加熱し、腫瘍を壊死させる治療法です。
穿刺局所療法は、肝癌診療ガイドライン上、Child-Pugh分類のAあるいはBの肝機能の症例で、腫瘍径3cm以下、腫瘍数3個以下の場合に推奨されています。
本件では、肝S8領域に23.5mm×20mmの腫瘤影1個が認められ、また入院当時のXの肝硬変は、肝障害度が3段階中の中位度であるBであり、同じく肝障害度の評価法であるChild-Pugh分類は9点で、3段階中の中位度(グレードB)の段階にありました。
そのため、RFAの適応上の問題はなかったと言えます。
2. RFAは超音波ガイド下で行われることが多いものの、病変の部位によってはCTガイド下や腹腔鏡下・開腹下で行うこともあります。
RFA施行時には腹部超音波にて十分に標的病変を観察し、太い脈管を避けつつ穿刺できるルートを計画し、隣接臓器の熱損傷が懸念される場合には、人工胸水・腹水の使用も考慮します。
その後、局所麻酔を行い、電極を穿刺し、標的結節より全周性に一回り大きく焼灼を行います。
RFAによる合併症の頻度は一般的には5~8%程度で、腹腔内出血、肝膿瘍、肝梗塞、胸水・腹水、胆汁囊胞、周辺臓器熱損傷、播種などが合併症として挙げられ、治療関連死は0.3~0.5%程度です(川村祐介「肝がんの治療法を知る ラジオ波焼灼療法」『がん看護』19巻6号、平成26年)。
腫瘍が横隔膜に隣接する本件においては、術後注意深く経過観察を行う必要があります。
本判決も指摘するとおり、Xは、本件手術当日午後8時35分ごろには、収縮期血圧と酸素飽和度が低下し、看護師の交替に伴う引継ぎでも、Xの酸素飽和度の低下が申し送られるなど、Xについて、ラジオ波焼灼術に通常合併するとされる症状のほかに、体内の何らかの部位からの出血を疑わせ、出血性ショックの兆候となる事象が複数生じていました。
また、Xは、同日午後10時ごろから、右頸部から右肩の疼痛を訴えており、これは少なくともXの横隔膜に何らかの異変が生じていたことを推認させる事象です。
Y2医師自身、同日午後9時30分ごろ、1度目の茶色水様物を嘔吐したXを診察した際に、ショック指数が1程度であって、出血量が約1lであると推測していました。
そうすると、Y2医師は、遅くとも同日午後10時の時点で、Xの横隔膜からの出血の可能性およびXが出血性ショックに至り、最悪の場合死亡する可能性があることを認識することができたと言えます。
なお、本判決では後期研修医であるY2医師の過失が中心に認められていますが、Y1医師においても、病変が横隔膜直下にあるという本件の事情においては、Y2医師らに対し、胸腔内への出血の可能性を共有していたほうが望ましかったと考えられます(医療判例解説90号78ページ参照)。
3. 本件では、Y2医師の不作為が過失の内容となっているところ、医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、医師の不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定されます(最判平成11年2月25日民集53巻2号235ページ参照)。
本判決は、本件手術の翌日午前3時ごろに止血措置のための開胸手術などを開始していれば、翌日午前7時10分においてXがなお生存していたであろうと認定しました。
本判決には、翌日午前3時ごろに開胸手術などを開始していれば救命できたと言えるのはなぜかについての言及がありませんが、放射線科医が血管造影で破綻した責任動脈を見つけて塞栓できていれば、救命できた可能性はあったと考えられます(医療判例解説90号78ページ参照)。
4. RFAは外科的治療と比べて低侵襲であるものの、腫瘍の位置によっては隣接臓器に熱損傷を生じさせるおそれがあります。
術後管理においてはバイタルなどを慎重に観察し、出血の可能性を疑った場合には速やかに打診、聴診、画像検査などを行う必要があるでしょう。