[1] 裁判所による「事前の同意」の認定
被告Y2は、遅くとも12月20日午前11時48分までには、原告X1に病状説明をした。
被告Y2は、本件患者の状態が前回入院時より悪化しており、肺水腫のため人工呼吸器による呼吸管理の適応もあるくらいのものと判断していた。
被告Y2は、本件患者の診察歴が短く、本件患者と十分な信頼関係が構築されるには至っていないことや、本件患者の同日の容態などに照らし、急変時の蘇生措置について直接本件患者に意思確認することは回避し、いわゆるキーパーソンと理解していた原告X1に蘇生措置について確認する必要があると判断していた。
そして、被告Y2が、原告X1に対し、本件入院中の上記措置について確認したところ、原告X1が、本件患者に対する心臓マッサージ、気管内挿管などは行わないでもよいとする旨を答えたことから、12月20日午前11時48分ごろ、電子カルテに「指示」として「急変時 心臓マッサージ、気管内挿管などは行わない」との記載を入力した。
[2]「事前の同意」の認定にかかる補足説明
(1)誤入力の可能性は認められないこと
被告Y2は、本件患者の電子カルテに、本件入院中の一連の指示事項の一つとして、本件記載を他の指示事項の記載と同時に入力したことが認められる。
そのため、被告Y2が、他の患者への指示事項を誤って入力したものとは認められず、本件患者や家族の同意なしにそのような記載をあえて入力したということも想定し難い。
被告Y2が、何らかの事情で同意が得られたものと誤認して本件記載を入力した可能性は抽象的にはないとはいえないが、憶測の域を出るものではない。
(2)被告Y2から原告X1に対する説明・確認が推認されること
本件患者は、前回入院時よりも容態が悪化していたものといえ、急変の可能性は高まっていたといえるのであるから、被告病院の医師ないし看護師において、急変時の対応をキーパーソンとみていた原告X1に確認することは、ごく自然の成り行きであったと認められる。
救急外来段階で、患者急変時の対応にかかる原告X1の意思が明確に示されなかったことについて、被告Y2は引き継ぎを受けていたものと推認される。
主治医である被告Y2が、原告X1に対し、本件入院時の本件患者の病状について何ら説明しなかったとは考え難く、原告X1としても、主治医から何ら病状についての説明がないまま、救急外来での説明のみで満足したとは想定し難い。
したがって、被告Y2は、本件入院に際し、原告X1に対し、本件患者の病状について説明するとともに、急変時の対応についても確認したものと推認することができるといえる。
本件記載において、DNRの方針を聞き取った相手方や状況の記載がないことは、この推認の妨げとなるものとはいえない。
(3)原告X1の陳述と供述の食い違い
本質的な部分における原告X1の陳述と供述の食い違いが複数認められることは、原告X1において本件入院時の状況について明確な記憶がないことを示唆する。
(4)原告X1の供述は認定を左右する事情とはいえないこと
原告X1は、本件患者の容態が急変した旨の連絡を受けて被告病院に駆け付けた際、看護師に対し、本件患者に心臓マッサージが行われていないことについての疑問や心臓マッサージは依頼していた旨を訴えているが、その後の原告X1の言動によれば、入院から1日も経過しないうちに本件患者の容態が急変したことに動揺した原告X1が、反射的に疑問などを訴えたものとみることができ、上記訴えをしたことをもって認定を左右する事情とはいえない。
[3] 結論
本件患者のDNRについては原告X1の同意があったといえ、本件患者の容態が急変した際にCPRを実施しなかった被告病院の対応について、注意義務違反があると認めることはできない。