転科後たたき込まれたのは明確な根拠に基づく治療
婦人科医であった温泉川氏はゼロから内科を学び始める。「研修医に戻ったような気持ちでした」と振り返るが、当時は苦労の連続であった。
例えば、カンファレンス。それまでは上司の指示を受けるというケースが多かったが、ここではプレゼンテーションをした医師に対して、ほかの医師やスタッフたちが意見を述べる。それに対してプレゼンテーションをした医師が再び自分の考えをぶつけていく。上司や部下、レジデントという立場は関係ない。あいまいな意見を述べれば、皆を納得させることはできない。温泉川氏は、腫瘍内科医は常に学び続けること、そしてエビデンスをもとにベストな治療計画を立てることが重要なのだと強く実感した。
また、高血圧症や糖尿病を抱えているがん患者もおり、血圧や血糖値のコントロールを行う必要もある。
「それまで内科のトレーニングを受けてきていないので、高血圧症や糖尿病の治療や心電図検査にも不慣れでした」
それでも、落ち込んでいる暇はない。時間を見つけては治療法や検査法について勉強し、少しずつスキルを身に付けていった。外科系からの環境の変化には苦労もあったが、内科を学び直すことで、婦人科医として培った経験にプラスして、提供できる医療の幅は広がった。今振り返ると転科の決断は本当に良い選択だったと温泉川氏は語る。
「それまで経験できなかったことに挑戦する中で、腫瘍内科医としての土台を築くことができました」
未知の症例に一つ一つ向き合う中で、どの臓器のがんにもベースとなるロジックがあることを知る。そのうえで、がんの種類によって応用し、患者に最適な治療を提供する。この繰り返しの中で、がん治療の幅を広げていった。