「応援する」「つながる」ことで医師の新たな活躍の場を創生
医師の専門分野ではない街づくりへの挑戦を、傲慢(ごうまん)だと思う者もいるかもしれない。もちろん田上氏自身は、自分のできることとできないことの区別は分かっている。
「僕たちは『応援する』をキーワードに地域へアプローチしているんです。起業など、地域で何かに挑戦したい人を支えようということで、農業、観光、空き家活用などのイベントを開催したり、その活動を動画などで配信したりしています。登米に来た当初は『自分が街づくりをするんだ』と意気込んでいましたが、今では『若い挑戦者を応援したい』という気持ちが強くなりました」と田上氏は言う。
「応援する」ことは外に目を向けることであり、地域と広く関わり、地元の人々と「つながる」ことでもある。これは医師がその地で自分らしい働き方を見つけ、地域に定着するためにも非常に重要な取り組みだ。さらに、そうした医師の姿や取り組みを情報発信することで、興味を持った医師が地域に集まるという好循環が生まれる。
田上氏は登米市の地元FMラジオでパーソナリティーもしている。住民に向け、予防医療や健康情報について発信しており、最近では「登米・新型コロナ情報局」と銘打って、COVID-19の情報発信を行う。さらに「coFFee doctors」というカフェを登米市の診療所近くに開設し、住民の医療相談や医療に関するイベントを開催している。また、Web版「coFFee doctors」は「挑戦する医師を発信するWebメディア」として開設され、それぞれの地域で社会課題の解決に向けて取り組む医師たちのインタビュー記事を発信している。これらも地域と「つながる」大切な活動だ。
「社会課題に取り組む医師たちの姿を多くの人が知ることで、新たなつながりが生まれ、行政や企業からのオファーが来るなど、医師の活躍の場が広がっていきます。そして、地域に新たな仕事と雇用が生まれ、人々が定着する。僕たちの活動には、活躍の場を求めている医師を支援する、という役割も含まれていると思っています」
実際に、こうした田上氏たちの活動に行政が注目し、やまと在宅診療所は2015年に登米市から行政アドバイザーに任命された。2019年には登米市から医師不足・偏在解決に向けた業務委託を受けるなど、新たな事業展開が次々に生まれている。