生命の誕生に立ち会える喜びや不妊の苦しみを患者と共有する
銘苅氏の専門は生殖医療と内視鏡下手術。妊娠を望む女性の高齢化にともない、女性特有のリスクも高まり、不妊症と子宮筋腫や子宮内膜症を併発するケースが増えているという。銘苅氏が教授を務める琉球大学病院周産母子センターでは年間150件ほどの腹腔鏡手術を行っている。
「妊娠に向けて、最適なタイミングと術式を見極めたテーラーメイドの腹腔鏡手術を行っています。子宮がんに対する腹腔鏡手術やロボット支援手術は、県内では琉大病院のみが実施でき、沖縄の女性が県外へ渡航することなく低侵襲手術を受けられるよう力を入れています」
同センターでは年間約400周期の体外受精を行い、全年齢平均の妊娠率が35%と良好な成績を収めている。医師の入れ替わりが激しい大学病院で、高度な医療を提供し成果を上げ続けるのは至難の業だ。
「若手医師を教育しながら、医療の質も保たなければならない。そのために、毎週カンファレンスを行い外来の指導に入るなど、綿密なコミュニケーションが不可欠。もちろんラボも重要なので、胚培養士さんの教育や管理も必須です」
また、小児・AYA世代のがん患者が、がん克服後に妊娠できる可能性を残すための妊孕性温存療法を行う「がん・生殖医療」にも注力している。具体的には、がん治療前に卵子・卵巣組織や精子を凍結しておくことだが、県内では主に琉球大学がその役割を担う。そのために、県内のがん治療施設と連携を強化し、温存療法とがん治療をスムーズに開始できる体制を構築した。
大学病院には、複数の病院での不妊治療を経てたどり着く患者もいる。その場合、年齢も高く、心も体も傷付いていることが多い。初診の時点で妊娠が難しいケースも少なくなく、そのような場合には医学的根拠を示しながら、妊娠への道を閉じるためのアドバイスも必要だ。患者の話を深く聞いていくと、子を持つことを諦めるための後押しを求めていることもある。
「不妊治療は治療技術だけではなく、患者さんとの会話が重要なんです。外来での15分、20分のコミュニケーションを最も大切にすべきです」
患者は、つらい気持ちを分かってほしい。医師は、治療のプロセスやメリットデメリットを説明し、事実としての治療成績を伝えなくてはならない。しかし、説明責任を優先するような会話では、患者は納得して治療に向かえない。患者の気持ちを医師が「分かる」とはどういうことなのか。
「若い時は、勉強したことから想像するしかなかった。でも、子育てや仕事との両立を経験した今、本当の意味で『分かる』ようになったのかもしれません。『先生久しぶり!』と患者さんが診察室に入ってきて、一緒に泣いたり笑ったり。同じ女性として、時には母親、友人の視点で会話をすることもあります」
2020年の生殖補助医療法成立、2022年の不妊治療の保険適用と「産みたい人」を支える法整備がなされたことは明るい兆しと言える。しかし、全ての患者がわが子を抱けるわけではない。銘苅氏は印象的な患者について話しながら、時折声を詰まらせた。
「うまくいかなかった患者さんのことは忘れられないですね。やっと妊娠しても、出産までがまた難しい。でも、その後も通院してくださり、逆に私を励ましてくれることも。女性の人生の重要な場面に関わらせていただいていることに感謝しています」
産婦人科医の仕事のやりがいを聞くと、「全てです」と即答した。
「生命の誕生に立ち会える喜び、難しい手術が成功したときの達成感は何物にも代え難い。患者さんと一緒に喜び悲しめる、かけがえのない仕事です」