入院患者のモニターアラーム不対応と看護師の注意義務

vol.275

神戸地方裁判所 平成23年9月27日判決
医療問題弁護団 佐藤 真依子 弁護士

* 裁判例の選択は、医療者側もしくは患者側の立場を意図したものではなく、中立の立場を取らせていただいております。

事件内容

[1] 患者

患者は20代で、右上肢麻痺、右下肢不全麻痺、てんかん、知的障害があった。

[2] 事実経過

平成19年5月15日、肺炎治療のため被告医療法人の運営する病院に入院した。

患者の病室は2人部屋であり、ナースステーションから廊下を挟んで斜向かいの、病室2室分ほど離れた位置にあった。

5月21日、患者は重症肺炎と診断され、人工呼吸器を装着したが、同月31日、呼吸状態が改善し、人工呼吸器を外した。

6月9日、呼吸状態が悪化して人工呼吸器を再装着し、同月18日には気管切開を施行、気管切開部に気管切開チューブ(カニューレ)を装着した。

7月14日、午前5時37分ごろ、呼吸停止の状態またはこれに近い状態で発見され、心臓マッサージおよびアンビューバッグによる人工呼吸が行われ蘇生したが、低酸素脳症が増悪し植物状態となった(以下、「本件事故」)。

本件事故当日の夜勤担当看護師は同フロアに3人であった。

事故当時、患者には心電図等のモニターが装着されており、ナースステーション内の画面に心電図、心拍数および呼吸数が表示され、設定値を逸脱するとアラームが鳴動する仕組みであった。

本件事故日以降、患者の意識は回復せず、翌年5月15日、転送先病院で敗血症および重症肺炎により死亡した。

[3] 訴訟提起

患者の遺族らは、被告医療法人に対し、アラームの不対応等の不適切な対応によって患者の低酸素脳症を悪化させ、死亡に至らしめたことに対する損害賠償を求め、訴えを提起した。

カニューレの固定方法に係る過失の有無、看護師らが患者の病室を頻回に巡回しなかった過失の有無、モニターの監視およびアラーム対応に関する過失の有無、過失と後遺障害・死亡との因果関係、損害額などが争点となった。

本稿では、モニターアラーム対応に関する過失(注意義務違反)について取り上げる。

判決

[1] 結論

被告医療法人に2250万円の損害賠償を命じた。

[2] 判断内容

裁判所は、「本件モニターは、心拍数が下限値を下回るか上限値を超えた場合にナースステーション内に在室する看護師らに異常を知らせるアラームが鳴る仕組みになっており、ナースステーション内に在室する看護師としては、アラームが鳴った場合には、直ちにモニターを確認して単なる一時的な異常と判断されるのであれば格別、そうでない場合には当該患者の病室を訪問して異常の原因を除去したり医師に異常を伝える等の措置を取るべき注意義務があると言うべきであって、この点は被告病院においてもそのような対応を行うべきものとされていた」と判示した。

その上で、本件では、午前5時21分以降、複数回にわたりアラームが鳴動していたにもかかわらず、ナースステーションに在室していた看護師が何らの対応をしなかったとして、各時点における注意義務違反を認めた。

裁判例に学ぶ

⒈ 心電図、心拍数および呼吸数等を表示・記録するモニター

患者の心電図、心拍数および呼吸数等を表示・記録するモニターは、患者の急変を早期発見するために極めて有用であり、広く医療現場で使用されています。

ベッドサイドモニターだけでなく、ナースステーションでも各患者のモニター確認が可能となっており、巡回中やナースステーション在室中にもモニターの異常に気付くことができるよう、画面表示に加えアラーム音が鳴るようになっている場合が一般的と考えられます。

非常に便利な機器ですが、患者の身動きや接触不良によりアラームが作動するなど、必ずしも緊急でない場合にアラームが鳴動する結果、アラームが頻繁に鳴動し、アラーム音が鳴っている状態が日常化している場合も少なくないといわれています。

しかし、誤作動ではなく、真に患者の異常を知らせるアラームであったのに、適切な対応をしなかったために、患者が重篤な後遺症を負ったり、死に至ることもあります。

上記判決では、アラームへの不対応に関し、フロアを担当していた看護師の過失が認められました。

あくまで一例ではありますが、アラームへの対応に関して、どのような場合に法的過失が認められるかの参考とすることができます。

⒉ アラーム不対応の類型と注意義務違反

アラームの不対応には幾つかの種類があり得ます。

[1]アラーム音に気付かなかったというもの、[2]アラーム音には気が付いたが、他の患者のケアなどを行っていたためアラームに対応できなかったというもの、[3]アラーム音に気が付いたが、誤報であったり、他の医療者が対応しているだろうと考えて対応しなかったというものなどが考えられます。

アラーム音に気付かなかった場合([1])について、上記判決では、看護師が「特に緊急の業務に従事していたなどアラームが鳴っていることに気が付かなかったとしてもやむを得なかったと言うべき事情も認められないから、アラームに気が付かなかったこと自体が過失と言うべきである」と述べ、看護師にアラームに気付くべき注意義務を認めています。

アラームが鳴動した際、他の患者対応など別の業務に従事していることもあり得ます([2])。

上記判決のケースでも、他の患者のおむつ交換やナースコール対応をしていたようですが、「アラームに対して対応しないことやこれを遅滞することは人命に関わる場合もあるのであって、アラームの対応が優先すべき業務であった」と述べ、業務の緊急性を比較してより緊急性の高い業務を優先すべきとしています。

上記判決からは、アラームが作動した場合、医療者が直ちにモニターを確認し、単なる一時的な異常とは判断されないときには、アラームへの対応と比較して、緊急性の高い業務に就いているのでなければ、アラーム対応を優先しなければならないという規範が読み取れます。

アラームを誤報と考えたり、他の医療者が対応しているだろうと考えて対応しなかったような場合([3])について、上記判決は明確に判断していません。

しかし、患者の異常を知らせるアラームが鳴っている場合に、誤作動であると結論づけるためにはモニターの確認や患者の状態確認などを要すると考えられ、そういった確認作業なしに誤報と結論づけることが正当化される場合は極めて限定的と考えられます。

また、他の医療者が対応していることを確認しないまま「誰かが対応しているだろう」と推測したことを理由とする正当化が認められるかについても非常に疑問であると言わざるを得ません。

⒊ 医師からモニター装着指示が出ていなかった場合

上記判決のケースでは、本件事故時、医師は心電図モニターの装着は不要と考え、外す指示をしていたところ、看護師が現場判断で念のためモニターを装着させていました。

被告医療法人側からは、看護師が医師の指示に従ってモニターを外していたら、モニターの異常に気付くのが遅れたかどうかは全く問題にならないはずなのに、看護師の判断でモニターを装着していたために対応の遅れの責任を問われるのは理不尽だと主張されていました。

しかし、裁判所は、医師からの指示がなくても、本件事故時にモニターが装着されアラームの設定もされていた以上はこれに対応すべきであることは当然であり、モニターが装着されていなかった場合を想定して過失の有無を論ずべきものではないと述べ、被告医療法人の反論を退けました。

このような裁判所の判断があるからといって、現場判断で念のための処置を行うことに抑制的になるべきではなく、患者の生命・健康のために最善の医療を行うよう努めることが求められています。

⒋ おわりに

このように、患者のモニターアラームが作動することによって、医療者にアラームに対応すべき法的注意義務が発生することがあります。

モニターアラームを最大限に活用し、患者の生命・健康を守るため、不必要にアラームが鳴る状態が常態化しないよう、鳴動の基準値設定の適正化やアラーム音の種類や音量設定の見直し、モニターアラームへの対応手順の明確化など、組織的な安全管理体制の整備が求められます。