⒈ 心電図、心拍数および呼吸数等を表示・記録するモニター
患者の心電図、心拍数および呼吸数等を表示・記録するモニターは、患者の急変を早期発見するために極めて有用であり、広く医療現場で使用されています。
ベッドサイドモニターだけでなく、ナースステーションでも各患者のモニター確認が可能となっており、巡回中やナースステーション在室中にもモニターの異常に気付くことができるよう、画面表示に加えアラーム音が鳴るようになっている場合が一般的と考えられます。
非常に便利な機器ですが、患者の身動きや接触不良によりアラームが作動するなど、必ずしも緊急でない場合にアラームが鳴動する結果、アラームが頻繁に鳴動し、アラーム音が鳴っている状態が日常化している場合も少なくないといわれています。
しかし、誤作動ではなく、真に患者の異常を知らせるアラームであったのに、適切な対応をしなかったために、患者が重篤な後遺症を負ったり、死に至ることもあります。
上記判決では、アラームへの不対応に関し、フロアを担当していた看護師の過失が認められました。
あくまで一例ではありますが、アラームへの対応に関して、どのような場合に法的過失が認められるかの参考とすることができます。
⒉ アラーム不対応の類型と注意義務違反
アラームの不対応には幾つかの種類があり得ます。
[1]アラーム音に気付かなかったというもの、[2]アラーム音には気が付いたが、他の患者のケアなどを行っていたためアラームに対応できなかったというもの、[3]アラーム音に気が付いたが、誤報であったり、他の医療者が対応しているだろうと考えて対応しなかったというものなどが考えられます。
アラーム音に気付かなかった場合([1])について、上記判決では、看護師が「特に緊急の業務に従事していたなどアラームが鳴っていることに気が付かなかったとしてもやむを得なかったと言うべき事情も認められないから、アラームに気が付かなかったこと自体が過失と言うべきである」と述べ、看護師にアラームに気付くべき注意義務を認めています。
アラームが鳴動した際、他の患者対応など別の業務に従事していることもあり得ます([2])。
上記判決のケースでも、他の患者のおむつ交換やナースコール対応をしていたようですが、「アラームに対して対応しないことやこれを遅滞することは人命に関わる場合もあるのであって、アラームの対応が優先すべき業務であった」と述べ、業務の緊急性を比較してより緊急性の高い業務を優先すべきとしています。
上記判決からは、アラームが作動した場合、医療者が直ちにモニターを確認し、単なる一時的な異常とは判断されないときには、アラームへの対応と比較して、緊急性の高い業務に就いているのでなければ、アラーム対応を優先しなければならないという規範が読み取れます。
アラームを誤報と考えたり、他の医療者が対応しているだろうと考えて対応しなかったような場合([3])について、上記判決は明確に判断していません。
しかし、患者の異常を知らせるアラームが鳴っている場合に、誤作動であると結論づけるためにはモニターの確認や患者の状態確認などを要すると考えられ、そういった確認作業なしに誤報と結論づけることが正当化される場合は極めて限定的と考えられます。
また、他の医療者が対応していることを確認しないまま「誰かが対応しているだろう」と推測したことを理由とする正当化が認められるかについても非常に疑問であると言わざるを得ません。
⒊ 医師からモニター装着指示が出ていなかった場合
上記判決のケースでは、本件事故時、医師は心電図モニターの装着は不要と考え、外す指示をしていたところ、看護師が現場判断で念のためモニターを装着させていました。
被告医療法人側からは、看護師が医師の指示に従ってモニターを外していたら、モニターの異常に気付くのが遅れたかどうかは全く問題にならないはずなのに、看護師の判断でモニターを装着していたために対応の遅れの責任を問われるのは理不尽だと主張されていました。
しかし、裁判所は、医師からの指示がなくても、本件事故時にモニターが装着されアラームの設定もされていた以上はこれに対応すべきであることは当然であり、モニターが装着されていなかった場合を想定して過失の有無を論ずべきものではないと述べ、被告医療法人の反論を退けました。
このような裁判所の判断があるからといって、現場判断で念のための処置を行うことに抑制的になるべきではなく、患者の生命・健康のために最善の医療を行うよう努めることが求められています。
⒋ おわりに
このように、患者のモニターアラームが作動することによって、医療者にアラームに対応すべき法的注意義務が発生することがあります。
モニターアラームを最大限に活用し、患者の生命・健康を守るため、不必要にアラームが鳴る状態が常態化しないよう、鳴動の基準値設定の適正化やアラーム音の種類や音量設定の見直し、モニターアラームへの対応手順の明確化など、組織的な安全管理体制の整備が求められます。