本件は術前の病理組織検査にて、低分化腺がんと診断されていたため、胃亜全摘手術に及んだところ、実際にはがん細胞がなかったため賠償請求を受けたという事案である。
胃癌取扱い規約【第13版】では、グループIからグループVに分類される。
このうち、グループIは「正常組織、および異型を示さない良性(非腫瘍性)病変(正常胃固有粘膜、腸上皮化生粘膜および異型を示さない良性病変)」、グループIIは「異型を示すが、良性(非腫瘍性)と判定される病変(胃固有粘膜、腸上皮化生粘膜および良性病変において異型を示すもの)」、グループIIIは「良性(非腫瘍性)と悪性との境界領域の病変(細胞異型および構造異型の点で、良性か悪性かの鑑別が困難なもの)」、グループIVは「がんが強く疑われる病変(がんが強く疑われるが、がんの確定診断を下し得ないもの)」、グループVは「がん(がんと確実に診断される病変)」とされている。
本件では、術前の病理組織検査にて、低分化腺がん・グループVと診断されたことから、担当医としては病理組織検査でグループV・確定診断とされているため、それを前提に外科手術に踏み切ったというもので、病理医と、臨床医のそれぞれの責任が問題となった。
病理医については、グループV、つまり「がんと確実に診断される病変」と診断したにもかかわらず、結果としてがんではなかったため、グループVと診断するだけの確実な根拠の有無が問題となったが、結論として、病理医の診断結果は根拠を欠くとはいえないとして、その責任を否定している。
他方で、担当医の責任は肯定されている。
具体的に問題となったのは、手術直前に行った上部消化管内視鏡検査にて1カ月前に確認された病変部の台状挙上が消失していたため、手術前に改めて胃がんであったのか再検討すべきだったかどうかである。
被告病院は、胃がんであることを疑うべき所見は見られず、悪性サイクルの知識を用いて形態変化(病変部の台状挙上の消失)を合理的に説明できたのであるから、再検討しなかったことは注意義務違反にはならないと主張したが、外観上隆起していたものが消失することは普通ではないこと、本件が典型的な悪性サイクルには該当しないことから、形態変化について合理的な説明ができるとした被告の主張は排斥され、担当医の責任が肯定された。
本件は結果的にがんではなかったという結果ゆえに担当医の責任が認められたわけではなく、手術直前に行われた上部消化管内視鏡検査の結果からすれば、当初の病理診断の再検討をすべきだったとされたもので、あくまで術前の病理診断に疑義を生じさせる事情が発生したがゆえに担当医の責任が認められたものである。
グループVは「がんと確実に診断される病変」と評価されるものであるから、その病理診断結果を信用して治療計画を組み立てることは本件でも問題視されていない。
しかし、疑義を生じさせる事情があった以上、グループVとの病理診断が出ていたとしても、それを妄信せず再検討することが求められているのである。
本件は、病理診断で確定するわけではなく、最終的には担当医が諸事情から判断する必要があることを示した裁判例として参考になる。