1. 医療保護入院の適法性の判断枠組み
医療保護入院(法第33条第1項)の要件は、指定医の診察や家族等による有効な同意といった手続的要件のほか、実体的要件として、[1]患者が精神障害者であり、[2]医療および保護のため入院の必要があり、[3]対象患者が当該精神障害のために任意入院が行われる状態にないことである。
このうち、[2]については、医療保護入院が、患者の同意なくしてその身体の自由を奪うものであることから、国連の「精神疾患を有する者の保護およびメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」(1991年)の、原則16「精神疾患が重篤であり、判断力が阻害されている場合、その者を入院させず、または入院を継続させなければ、深刻な状態の悪化が起こる見込みがあり、最小規制の代替原則に従って、精神保健施設に入院させることによってのみ得られる適切な治療が妨げられる」場合等、限定的に解釈されるべきである。
これ以外にも、「入院医療を継続しなければ深刻な事態を回避できないことが具体的事実を挙げて十分に説明できるかどうか」(「精神障害者の権利擁護に関する研究」厚生労働科学研究松田班2022年報告書139頁)といった観点から判断されるべきとする見解や、地域生活を維持し、入院を回避するための合理的配慮を尽くした上で、入院以外に医療および保護を図るための手段がない場合を意味する(池原毅和『精神障害法』(三省堂2011年)151頁)とした見解が参考になる。
本判決が参照する精神科救急医療ガイドラインもこれらの見解と軌を一にするものである。
2. 本事例における判断のポイント
本判決は事例判断であるが、前述のような入院経過を踏まえ、医療記録を中心に精査し判断がされている。
特に、定期病状報告や退院支援委員会の審議記録が前回分と完全に同一の記載内容であることや、これらの書類に記載されたXの問題行動が医療記録によって裏付けられないこと、任意入院への切り替えの打診をしていないこと、親族に上記委員会への参加を呼びかけていないことなどから、原告の病状の安定の継続を踏まえ、退院後の環境調整や原告およびその家族に対する適切な情報提供も含め、原告の入院の必要性について適切に検討しなかったと評価され、このことが違法との判断につながっている。
3. 精神医療審査会における審査
医療保護入院の適法性に関する精神医療審査会の審査においては、入院時の入院届、および入院継続時における入院期間更新届(なお、令和4年法改正により定期病状報告の仕組みは廃止)に対する審査がなされることが一般的である。
これらの届に関する審査実務においては、地域差があるものの、原則として書面審査であり、入院届、更新届以外に退院支援委員会(法33条第6項第2号)における審議記録等が添付されるのみで、全件に詳細な医療記録が添付されることや、病院管理者に対し、診療録の提出を求めたり、関係者の意見聴取が実施されたりすることはほとんどない。
このようにこれらの書類が、医療記録に照らし正確な内容かどうかといった厳密な審査まではされていない。
そのため、病院管理者としては、審査会の審査結果をもって医療保護入院が適法になされたと判断するのではなく、患者の実態を踏まえ、常に医療保護入院の要件を充足しているか、任意入院への切り替えは可能かについて顧慮すべき義務があることに留意すべきである。
また、医療保護入院における入院届や入院期間更新届、退院支援委員会の審議記録に記載する事項に関しては、本判決が指摘するように「いかなる事情を根拠とした記載であるのか医療記録に照らしても明らか」にできるようにしておくとともに、安易に、以前の審議記録や更新届の記載をそのまま踏襲することは控えるべきである。