医療保護入院における精神保健福祉法第33条第1項の要件充足の判断

vol.278

医療および保護のため入院の必要があって、任意入院が行われる状態でないとはいえないとして、医療保護入院の継続が違法とされた事例

札幌地裁 令和7年12月24日判決 令和5年(ワ)第2716号
医療問題弁護団 大久保 秀俊 弁護士

* 裁判例の選択は、医療者側もしくは患者側の立場を意図したものではなく、中立の立場を取らせていただいております。

事件内容

本件は、患者XがY病院に、平成12年5月29日から平成16年1月29日まで、同月31日から平成29年6月24日まで、同月26日から令和4年8月18日までの間、Y病院において、母の同意により医療保護入院となっていた(診断は知的障害および統合失調症)。

平成30年3月11日以降も医療保護入院を継続したことが違法なものであるとして、Xが原告となり、Y病院を被告として、損害賠償請求をした事案である。

判決

本件における争点のうち平成30年3月11日以降におけるXの医療保護入院の必要性の有無について詳述する。

なお、本判決は、慰謝料として165万円を認容し、確定している。

本判決は、「精神科病院の管理者は、医療保護入院中の者につき、医療保護入院の要件を満たしていると判断することが不合理といえるに至った場合には、速やかに患者を退院させるべき義務を負っている」とし、「医療保護入院の判断基準のうち、精神障害のために適切な判断ができない状態にあり、かつ、医療および保護のため入院の必要があって、任意入院が行われる状態にないということができるか否かについては」、精神科救急医療ガイドラインの記載も踏まえ、「[1]法が規定する精神障害と診断されること、[2]その精神障害により判断能力が著しく低下した病態にあること、[3]同病態のために、社会生活上、自他に不利益となる事態が生じていること、[4]医学的介入なしには、この事態が遷延ないし悪化する可能性が高いこと、[5]医学的介入によってこの事態の改善が期待されること、[6]入院治療以外に医学的な介入の手段がないこと、[7]入院治療についてインフォームドコンセントが成立しないこと、といった各要素を満たすか否かも考慮して判断すべき」とした。

そして、

(1)平成30年7月26日に隔離措置が解除されて以降は、状態も安定し、医療記録上、他患との再度のトラブルの存在を確認することができる令和2年3月29日まで、1年8カ月程度継続し、この隔離措置解除以降の時点で、Xの判断能力が著しく低下した病態といえるか、社会生活上、自他に不利益となる事態が生じているということができるか、医学的介入の方法として入院治療以外に方法はないかについて疑問があり、Xの病識の欠如により入院治療についてのインフォームドコンセントが成立しないという病状であったかについても、疑問がある。

(2)令和2年3月29日の他患とのトラブルはXが暴力を振るわれた際のものであり、同年4月19日の他患とのトラブルは、Xが別の他患から難癖をつけられた際のものであるなど、Xが隔離措置を受ける原因となったおやつの盗食や女子室への侵入とは質的に一線を画する原因によるものであった。

(3)この間の定期病状報告や退院支援委員会の審議記録の記載を見ると、令和元年6月の定期病状報告における、逸脱行為が認められなくなってきたとの記載は、上記の医療記録と整合する一方、「他患に反応しやすい状態」や、令和2年3月の退院支援委員会の審議記録における「トラブルや粗暴行為」「繰り返しの指導も身につかない」との記載については、いかなる事情を根拠とした記載であるのか医療記録に照らしても明らかではない。

(4)令和2年および令和3年の定期病状報告の記載が令和元年の定期病状報告の記載と完全に同一であることなども踏まえると、令和元年当時においても、Y病院において、平成30年7月26日以降、Xの病状の安定が一定期間継続している状況を、医療保護入院の必要性の観点から適切に評価しようとした形跡はうかがわれない。

(5)この間、任意入院への切り替えについての働きかけもなく、原告の家族に対する退院支援委員会への参加の直接の呼びかけもされていない。

という経過を踏まえ、「令和元年6月25日の時点においては、(中略)医療保護入院の要件を満たしていると判断することが不合理ということができるに至ったというべきであり、したがって、その翌日以降も原告の医療保護入院を継続したことは違法」とした。

また、精神医療審査会による審査の結果、Xに医療保護入院の必要があるとの審査結果であったとしても、「審査結果にかかわらず、精神科病院の管理者において患者を退院させるべき義務を負う」とし、「審査の前提となる被告からの定期病状報告においても、いかなる事情を根拠とした記載であるのか医療記録に照らしても明らかでない記載が見られることからすれば、精神医療審査会の審査において、原告につき医療保護入院の必要性があると認められたことは、(中略)結論を左右するものではない」と判示した。

裁判例に学ぶ

1. 医療保護入院の適法性の判断枠組み

医療保護入院(法第33条第1項)の要件は、指定医の診察や家族等による有効な同意といった手続的要件のほか、実体的要件として、[1]患者が精神障害者であり、[2]医療および保護のため入院の必要があり、[3]対象患者が当該精神障害のために任意入院が行われる状態にないことである。

このうち、[2]については、医療保護入院が、患者の同意なくしてその身体の自由を奪うものであることから、国連の「精神疾患を有する者の保護およびメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」(1991年)の、原則16「精神疾患が重篤であり、判断力が阻害されている場合、その者を入院させず、または入院を継続させなければ、深刻な状態の悪化が起こる見込みがあり、最小規制の代替原則に従って、精神保健施設に入院させることによってのみ得られる適切な治療が妨げられる」場合等、限定的に解釈されるべきである。

これ以外にも、「入院医療を継続しなければ深刻な事態を回避できないことが具体的事実を挙げて十分に説明できるかどうか」(「精神障害者の権利擁護に関する研究」厚生労働科学研究松田班2022年報告書139頁)といった観点から判断されるべきとする見解や、地域生活を維持し、入院を回避するための合理的配慮を尽くした上で、入院以外に医療および保護を図るための手段がない場合を意味する(池原毅和『精神障害法』(三省堂2011年)151頁)とした見解が参考になる。

本判決が参照する精神科救急医療ガイドラインもこれらの見解と軌を一にするものである。

2. 本事例における判断のポイント

本判決は事例判断であるが、前述のような入院経過を踏まえ、医療記録を中心に精査し判断がされている。

特に、定期病状報告や退院支援委員会の審議記録が前回分と完全に同一の記載内容であることや、これらの書類に記載されたXの問題行動が医療記録によって裏付けられないこと、任意入院への切り替えの打診をしていないこと、親族に上記委員会への参加を呼びかけていないことなどから、原告の病状の安定の継続を踏まえ、退院後の環境調整や原告およびその家族に対する適切な情報提供も含め、原告の入院の必要性について適切に検討しなかったと評価され、このことが違法との判断につながっている。

3. 精神医療審査会における審査

医療保護入院の適法性に関する精神医療審査会の審査においては、入院時の入院届、および入院継続時における入院期間更新届(なお、令和4年法改正により定期病状報告の仕組みは廃止)に対する審査がなされることが一般的である。

これらの届に関する審査実務においては、地域差があるものの、原則として書面審査であり、入院届、更新届以外に退院支援委員会(法33条第6項第2号)における審議記録等が添付されるのみで、全件に詳細な医療記録が添付されることや、病院管理者に対し、診療録の提出を求めたり、関係者の意見聴取が実施されたりすることはほとんどない。

このようにこれらの書類が、医療記録に照らし正確な内容かどうかといった厳密な審査まではされていない。

そのため、病院管理者としては、審査会の審査結果をもって医療保護入院が適法になされたと判断するのではなく、患者の実態を踏まえ、常に医療保護入院の要件を充足しているか、任意入院への切り替えは可能かについて顧慮すべき義務があることに留意すべきである。

また、医療保護入院における入院届や入院期間更新届、退院支援委員会の審議記録に記載する事項に関しては、本判決が指摘するように「いかなる事情を根拠とした記載であるのか医療記録に照らしても明らか」にできるようにしておくとともに、安易に、以前の審議記録や更新届の記載をそのまま踏襲することは控えるべきである。