美容外科クリニックの前額形成術における前頭洞穿孔につき過失が認められた事例

vol.281

東京地裁 令和8年5月28日判決(控訴)
医療問題弁護団 大森 夏織 弁護士

* 裁判例の選択は、医療者側もしくは患者側の立場を意図したものではなく、中立の立場を取らせていただいております。

事件内容

外傷のため大学病院で数年にわたり顔面骨骨折整復、頭蓋形成、眼窩減圧の骨折整復術等の治療を受けた患者(40歳代男性)が、前額への脂肪注入を希望して美容クリニック(以下「被告クリニック」という)を受診したところ、被告クリニックでハイドロキシアパタイトによる前額形成とその際の骨切りを勧められて施術した結果、前頭洞前壁に孔が生じ炎症を生じたため、大学病院の主治医が非常勤勤務する別医療機関で頭蓋内異物除去とデブリードマン、前頭洞窩欠損への移植手術等のリカバリー治療を余儀なくされた事例。

なお美容医療賠償責任保険会社が訴訟の補助参加人となり、被告クリニックの施術が、保険契約上の美容を唯一の目的とする医療行為ではない、と主張し被告クリニックと保険会社間で保険金支払いについても争われた。

判決

本件の主要争点は、[1]本件前額形成に適応があったか、[2]手術後の前頭洞に孔があるか、あるとしてその原因、[3]孔があるとして手技ミスか、[4]手術後数カ月の外来通院期間中、前額の感染見落としがあったか、などである。

被告クリニックは、[1]脂肪注入より前額を削りハイドロキシアパタイトを注入する方が患者には適していた、[2]そもそも前頭洞に孔は存在しない、存在するとしても患者の蓄膿症・副鼻腔炎の既往による孔の出現である、[3]孔を生じたとしても手技ミスではない、[4]手術後の外来期間に必ずしも前額に感染は生じていなかった、などと主張していた。

判決では、[1]クリニックで適応のない前額形成術を勧めた、[2]手術後に前頭洞に孔が生じ、これは前頭洞の削り過ぎあるいは削骨時の摩擦熱や圧力による、[3]前頭洞に孔を生じさせたことが過失でありこれにより感染が生じたことを認定し(手技ミスを認定したので感染見落としまでは判断に至らず)、被告クリニックでの治療費、他医療機関でのリカバリー手術治療費、通院慰謝料などの支払いを命じた。

被告クリニックと補助参加人保険会社の争いについては、本件は大学病院での外傷治療は終了しており美容目的で被告クリニックを受診したと認定され、判決で保険支払いが命じられた。

裁判例に学ぶ

当職は本件の原告代理人である。

東京地方裁判所の医療集中部は毎年裁判統計を発表しており、東京では形成外科(美容医療含む)の訴訟が歯科と並んで多いのが特徴である(直近統計の昨年度は18%)。

本件は原告患者側がほぼ全面的に勝訴した事案ではあるが、まずは、このような裁判をせずとも裁判前に被告クリニックが当初の話し合いに応じて示談で解決してもらいたかった、という疲労感が先に立つ。

しかも被告クリニックが控訴したので、2026年9月時点で訴訟はまだ終わっていない。

原告が本件の訴訟提起を余儀なくされた後、裁判所からは判決内容に近い認定と金額での和解案が提示されたが、被告クリニック側が和解に応じなかったため、法廷で被告クリニックの術者医師の尋問をすることになり、さらには患者に何ら関わりのない被告クリニックと保険会社間の保険金支払いの争いが加わり、判決までかなりの期間を要した。

被告クリニックの医療記録には手術記録・麻酔記録もなく(麻酔医も加わっていたとのことであるが医療記録には記載がない)カルテに文字通り数行で手術経過が書かれているだけで、被告クリニックの経営者医師が裁判上の証拠で提出したCT分析はそもそもCTのスライス数について誤っているなど、低水準の医療提供が随所にうかがえた。

被告クリニックの術者医師は、そもそも脂肪注入をして患者が希望する前額の整えをすれば良かったのに、自ら骨切りを勧め、骨切りも「右は前頭洞ぎりぎりまで削り」という計画がカルテに記載されていたにもかかわらず、「実は前頭洞が内部にある、孔を指摘された前頭箇所は削っていなかった」などと明らかに事実と異なることを法廷で述べ始めるなど、無理な治療計画、下手な手技、感染の見落としに加え、裁判での不誠実な態度と、どの経過を切り取っても、全く評価できないものであった。

大学病院主治医が非常勤勤務先医療機関でリカバリー手術を余儀なくされ(美容医療のリカバリーである自由診療を保険診療がメインとなる大学病院では実施できないことが多い)、この大学病院主治医にも被告クリニックは多大な迷惑をかけた。

医療者の方々は、患者側が無理な医療訴訟提起をしているのでは?という、実際とは異なるイメージを持たれているかもしれず、この「医療過誤判例集」ではそのような誤解を払拭できる貴重なコーナーであろうが、したくもない訴訟を余儀なくされている例として本事案を紹介した。

原告側からは、この大学病院主治医の意見書に加え、孔の存在に関する頭部画像読影専門家の放射線診断医の意見書も証拠として提出したが、明らかにずさんな手技結果であっても、かように医療者の意見書を証拠提出しなければ自信を持って患者側勝訴判決を出さない裁判所に対しても、じくじたる思いはある。

なお、過日、医学部の学生さんに患者側弁護士の日常についてお話をさせていただく機会があったので、当職がこれまで患者側の依頼を受けた案件につき振り返ってみたところ、例えば消化器科・心臓血管外科・脳神経科などの分野では、調査の結果、医療側に法的責任追及をするのは難しい、という判断をしてご依頼者に報告する事案も一定程度あったが、美容医療案件では全件つまり100%、医療側に責任があるという調査結果であった。

ことほどさように、美容医療については、適応を欠く施術の推奨、説明不足でいいかげんな施術が横行しているのではないか、と個人的経験から感じるところである。