当職は本件の原告代理人である。
東京地方裁判所の医療集中部は毎年裁判統計を発表しており、東京では形成外科(美容医療含む)の訴訟が歯科と並んで多いのが特徴である(直近統計の昨年度は18%)。
本件は原告患者側がほぼ全面的に勝訴した事案ではあるが、まずは、このような裁判をせずとも裁判前に被告クリニックが当初の話し合いに応じて示談で解決してもらいたかった、という疲労感が先に立つ。
しかも被告クリニックが控訴したので、2026年9月時点で訴訟はまだ終わっていない。
原告が本件の訴訟提起を余儀なくされた後、裁判所からは判決内容に近い認定と金額での和解案が提示されたが、被告クリニック側が和解に応じなかったため、法廷で被告クリニックの術者医師の尋問をすることになり、さらには患者に何ら関わりのない被告クリニックと保険会社間の保険金支払いの争いが加わり、判決までかなりの期間を要した。
被告クリニックの医療記録には手術記録・麻酔記録もなく(麻酔医も加わっていたとのことであるが医療記録には記載がない)カルテに文字通り数行で手術経過が書かれているだけで、被告クリニックの経営者医師が裁判上の証拠で提出したCT分析はそもそもCTのスライス数について誤っているなど、低水準の医療提供が随所にうかがえた。
被告クリニックの術者医師は、そもそも脂肪注入をして患者が希望する前額の整えをすれば良かったのに、自ら骨切りを勧め、骨切りも「右は前頭洞ぎりぎりまで削り」という計画がカルテに記載されていたにもかかわらず、「実は前頭洞が内部にある、孔を指摘された前頭箇所は削っていなかった」などと明らかに事実と異なることを法廷で述べ始めるなど、無理な治療計画、下手な手技、感染の見落としに加え、裁判での不誠実な態度と、どの経過を切り取っても、全く評価できないものであった。
大学病院主治医が非常勤勤務先医療機関でリカバリー手術を余儀なくされ(美容医療のリカバリーである自由診療を保険診療がメインとなる大学病院では実施できないことが多い)、この大学病院主治医にも被告クリニックは多大な迷惑をかけた。
医療者の方々は、患者側が無理な医療訴訟提起をしているのでは?という、実際とは異なるイメージを持たれているかもしれず、この「医療過誤判例集」ではそのような誤解を払拭できる貴重なコーナーであろうが、したくもない訴訟を余儀なくされている例として本事案を紹介した。
原告側からは、この大学病院主治医の意見書に加え、孔の存在に関する頭部画像読影専門家の放射線診断医の意見書も証拠として提出したが、明らかにずさんな手技結果であっても、かように医療者の意見書を証拠提出しなければ自信を持って患者側勝訴判決を出さない裁判所に対しても、じくじたる思いはある。
なお、過日、医学部の学生さんに患者側弁護士の日常についてお話をさせていただく機会があったので、当職がこれまで患者側の依頼を受けた案件につき振り返ってみたところ、例えば消化器科・心臓血管外科・脳神経科などの分野では、調査の結果、医療側に法的責任追及をするのは難しい、という判断をしてご依頼者に報告する事案も一定程度あったが、美容医療案件では全件つまり100%、医療側に責任があるという調査結果であった。
ことほどさように、美容医療については、適応を欠く施術の推奨、説明不足でいいかげんな施術が横行しているのではないか、と個人的経験から感じるところである。