健診センターのシステムの仕様に起因した健診結果の誤通知

vol.279

再読影による正しい判定結果を受検者に報告すべきとした事例

大阪地方裁判所 令和6年12月25日(Westlaw Japan文献番号2024WLJPCA12256007)
医療問題弁護団 松井 菜採 弁護士

* 裁判例の選択は、医療者側もしくは患者側の立場を意図したものではなく、中立の立場を取らせていただいております。

事件内容

原告は健診時50代女性、被告は医療法人である。

原告は、2016年9月、被告運営の健診センター(以下「被告健診センター」という)で職場健診を受けた。

被告健診センターの一次読影医(胸部外科医)と二次読影医(放射線科医)はおのおの、原告の胸部X線画像について、判定「A」、所見「異常ありません」と診断し、画像レポートシステムに入力した。

その後、被告健診センターの情報科は、健診システムのロック(判定結果を固定する処理)を行った。

被告健診センターでは、健診システムのロック後も、二次読影医が、再読影の結果を踏まえて、画像レポートシステムの判定・所見を変更することが可能であった。

二次読影医は、いつも判定に慎重を期するため後日再読影を行っており、原告の本件胸部X線画像を再読影した結果、判定「C(軽度異常あり、要経過観察)」、所見「右肺尖結節影疑い」と診断し、画像レポートシステムの判定・所見を変更する入力をした(胸部X線画像上、客観的に正しい判定は「C」であった)。

しかし、被告健診センターの健診システムでは、ロック後に二次読影医が画像レポートシステムに変更入力した判定・所見のうち、所見は健診システムに反映されるが、判定は反映されない仕様になっていた(二次読影医は、ロック後に画像レポートシステム上で変更入力した判定・所見の双方とも、健診システムに反映されると考えていた)。

そのため、健診システムから印刷して原告に送付した報告書には、判定「A」、所見「右肺尖結節影疑い」と記載されており、原告はこれを受領した。

原告は、翌2017年9月に被告健診センターで健診を受け、胸部X線画像の判定「D2(要精検)」、所見「右肺尖浸潤影疑い」「胸部検査に異常を認めます。なるべく早い機会に精密検査を受けてください」との報告書を受領した。

大学病院等で診察を受け、同年11月に肺腺がん(ステージIIIA)と診断された。

化学放射線療法や肺切除術を受けたが、肺がんの再発・転移が生じ、化学療法を継続している。

判決

[1] 注意義務違反

被告は、本件健診の受検者である原告に対し、原告の勤務先である株式会社と被告との間の業務委託契約に基づいて、正しい健診結果を報告する義務を負う。

被告は、二次読影医の再読影前の判定結果である「A」と記載された報告書を、原告に送付し、正しい健診結果である判定結果「C」を、原告に報告しなかったのであるから、債務不履行責任がある。

被告において、二次読影医による再読影が予見できなかったとはいえないし、二次読影医による再読影の結果が客観的に正しいものであった以上、被告が原告に対しその結果を報告すべきことは当然である。

[2] 因果関係・損害額

原告の胸部X線画像における結節影は2016年9月が7mm、2017年9月が18mmであり、2017年11月の胸部CT検査では29mm大の結節影が認められた。

仮に、2016年9月の報告書の判定が「C」であったならば、原告は速やかに医療機関を受診していた可能性が高く、胸部CT検査を受けるなどして、肺がんの確定診断を受けていれば、病期はステージIA2と診断されていた可能性が高い。

しかし、その時点で手術等の治療を開始できていたとしても、ステージIA2の5年無再発生存率が72.9%であること、原告の肺腺がんの病理組織診断結果等からすると、被告の債務不履行がなければ、原告が5年後も肺がんの再発や転移のないまま生存していた高度の蓋然性があったとはいえない。

したがって、被告の債務不履行責任と原告の肺がんの再発・転移との間に因果関係はない。

他方、ステージIIIAの5年無再発生存率は37.5%と、ステージIA2に比して相当低いことからすると、被告の債務不履行責任がなければ、原告が「5年後も肺がんの再発や転移のないまま生存していた相当程度の可能性」はあった。

損害額は、原告の精神的苦痛に対する慰謝料400万円、弁護士費用40万円の合計440万円である。

裁判例に学ぶ

本事例は、一部新聞社ウェブサイトでも報道されている事案である。

被告健診センターの二次読影医は、原告の胸部X線画像を読影し、当初は「A(異常なし)」と診断したが、再読影の結果、判定「C(軽度異常あり、要経過観察)」、所見「右肺尖結節影疑い」と診断を改め、これを画像レポートシステムに変更入力した。

にもかかわらず、被告健診センターのシステムの仕様に起因し、再読影の判定・所見が受検者に送付される健診結果報告書に反映されなかった。

そのため、受検者である原告に対し、「A(異常なし)」という誤った結果通知がなされた。

本判決が認定した注意義務は、「正しい健診結果を報告する義務」であり、この部分だけを読めば、至極当然のことを当然に述べただけの判決のように見える。

しかし、事案の内容をよく読むと、他山の石として、自施設の医療安全を再点検するきっかけとすべき事例である。

本事例で、受検者に送付される健診結果報告書に誤った健診結果が記載されたのは、被告健診センターの健診システムの仕様(健診システムのロック後も、二次読影医は画像レポートシステムに変更入力できるが、変更入力された内容は健診システムに反映されない仕様)に起因するものであり、健診センターで用いるシステムとして仕様自体が不適切であったと考えられる。

また、このような健診システムの仕様となっていることについて、被告健診センターは、二次読影医や健診結果報告書の印刷・発送を担当する職員に知らせていなかった。

本判決によると、被告は、「二次読影医が再読影やこれを踏まえた判定の変更を行っていることを認識しておらず、システム相互間の反映の可否も認識していなかった」し、「二次読影医が、被告(被告健診センター)にとっても予見しがたい、通常以上の対応を行った」から注意義務違反はない、「集団健診が短時間に多数の受検者を健診しなければならないという特殊性を持つことから、時間的・経済的制約がある」等と主張していた。

しかし、裁判所は、被告を免責することはなかった。

集団健診は、短時間に多数の受検者を診断するという特殊性があるとしても、むしろそのような特殊性があるからこそ、集団健診を支えるシステムの仕様に起因する誤通知について、健診センターは、基本的には、仕様を認識していなかったことを理由に責任を免れないということである。

健診センターのシステムを構築する際には、読影医が一般的にルーティンで行う手順を把握し、それを踏まえたシステムの仕様とし、複数のシステムを利用するときはシステム相互間の情報反映を確認し、その仕様を的確に認識し、複数のシステム相互間で適切な情報反映がなされないときは、仕様の修正を含めた対応策を要する。

本判決は、健診結果の誤通知と肺がんの再発・転移との間の因果関係を否定したことから、損害賠償額は440万円であった。

しかし、複数の新聞社ウェブサイトの報道によると、本判決に対し当事者双方とも控訴しており、控訴審の大阪高裁は、2026年6月18日、被告の注意義務違反を認めた上で、健診結果の誤通知と5年間の肺がん悪化との間の因果関係を肯定し、損害賠償額を約2220万円に増額する認容判決を言い渡した(本記事脱稿当時、大阪高裁判決は公刊物未登載・未入手)。

なお、医療情報システムの仕様(機能)に起因して生じた医療事故について医療機関の責任が認められた事例としては、2024年10月号掲載vol.256「電子カルテ上の『転室・転床』操作でアラーム設定が上書き」がある。

また、検診(個別受診方式)における結果通知の遅れについて医療機関の責任が認められた裁判例としては、2019年11月号掲載vol.200「胃がん検診を担当した医師に受診者に対して速やかにX線検査の結果を通知し受診指導をすべき注意義務違反が認められた事例」がある。

医療安全対策にはこれらの事例も併せて参考にされたい。