本事例は、一部新聞社ウェブサイトでも報道されている事案である。
被告健診センターの二次読影医は、原告の胸部X線画像を読影し、当初は「A(異常なし)」と診断したが、再読影の結果、判定「C(軽度異常あり、要経過観察)」、所見「右肺尖結節影疑い」と診断を改め、これを画像レポートシステムに変更入力した。
にもかかわらず、被告健診センターのシステムの仕様に起因し、再読影の判定・所見が受検者に送付される健診結果報告書に反映されなかった。
そのため、受検者である原告に対し、「A(異常なし)」という誤った結果通知がなされた。
本判決が認定した注意義務は、「正しい健診結果を報告する義務」であり、この部分だけを読めば、至極当然のことを当然に述べただけの判決のように見える。
しかし、事案の内容をよく読むと、他山の石として、自施設の医療安全を再点検するきっかけとすべき事例である。
本事例で、受検者に送付される健診結果報告書に誤った健診結果が記載されたのは、被告健診センターの健診システムの仕様(健診システムのロック後も、二次読影医は画像レポートシステムに変更入力できるが、変更入力された内容は健診システムに反映されない仕様)に起因するものであり、健診センターで用いるシステムとして仕様自体が不適切であったと考えられる。
また、このような健診システムの仕様となっていることについて、被告健診センターは、二次読影医や健診結果報告書の印刷・発送を担当する職員に知らせていなかった。
本判決によると、被告は、「二次読影医が再読影やこれを踏まえた判定の変更を行っていることを認識しておらず、システム相互間の反映の可否も認識していなかった」し、「二次読影医が、被告(被告健診センター)にとっても予見しがたい、通常以上の対応を行った」から注意義務違反はない、「集団健診が短時間に多数の受検者を健診しなければならないという特殊性を持つことから、時間的・経済的制約がある」等と主張していた。
しかし、裁判所は、被告を免責することはなかった。
集団健診は、短時間に多数の受検者を診断するという特殊性があるとしても、むしろそのような特殊性があるからこそ、集団健診を支えるシステムの仕様に起因する誤通知について、健診センターは、基本的には、仕様を認識していなかったことを理由に責任を免れないということである。
健診センターのシステムを構築する際には、読影医が一般的にルーティンで行う手順を把握し、それを踏まえたシステムの仕様とし、複数のシステムを利用するときはシステム相互間の情報反映を確認し、その仕様を的確に認識し、複数のシステム相互間で適切な情報反映がなされないときは、仕様の修正を含めた対応策を要する。
本判決は、健診結果の誤通知と肺がんの再発・転移との間の因果関係を否定したことから、損害賠償額は440万円であった。
しかし、複数の新聞社ウェブサイトの報道によると、本判決に対し当事者双方とも控訴しており、控訴審の大阪高裁は、2026年6月18日、被告の注意義務違反を認めた上で、健診結果の誤通知と5年間の肺がん悪化との間の因果関係を肯定し、損害賠償額を約2220万円に増額する認容判決を言い渡した(本記事脱稿当時、大阪高裁判決は公刊物未登載・未入手)。
なお、医療情報システムの仕様(機能)に起因して生じた医療事故について医療機関の責任が認められた事例としては、2024年10月号掲載vol.256「電子カルテ上の『転室・転床』操作でアラーム設定が上書き」がある。
また、検診(個別受診方式)における結果通知の遅れについて医療機関の責任が認められた裁判例としては、2019年11月号掲載vol.200「胃がん検診を担当した医師に受診者に対して速やかにX線検査の結果を通知し受診指導をすべき注意義務違反が認められた事例」がある。
医療安全対策にはこれらの事例も併せて参考にされたい。