産業医の年収はどのくらい?
専属・嘱託産業医の給与相場や、企業にもたらす価値を解説

更新日:2024/10/25 公開日:2024/10/21

産業医の年収はどのくらい?専属・嘱託産業医の給与相場や、企業にもたらす価値を解説

2019年4月1日から順次施行された「働き方改革関連法」によって産業保健の重要性が増し、産業医のニーズは年々高まっています。

そこで本記事では、産業医の仕事内容や年収事情について、わかりやすく解説します。

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産業医とは

産業医とは

産業医とは、医学に関する専門的立場から、事業場において労働者の健康管理などを行う医師を指します。「労働安全衛生法第13条」では、すべての業種において、常時50人以上の労働者を使用する事業場で産業医の選任が義務付けられています。

産業医を事業場に選任する条件

病院の勤務医とは異なり、産業医は診断や治療は行いません。労働者が健康かつ快適に働けるかどうかを判定し、専門的立場を活かした助言・指導を行います。治療が必要と判断した場合は自らが治療をするのではなく、医療機関への受診を勧めます。

産業医の仕事内容

産業医の職務は「労働安全衛生規則第14条第1項」によって定められています。以下は、代表的な4つの業務です。

職場を巡視し、アドバイスを行う

職場の危険箇所、衛生面、作業環境など、従業員の心身へ悪影響を与える部分がないかを毎月1回以上チェックします。
作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じます。

健康診断結果をチェックする

従業員の健康診断結果を確認し、通常勤務・就業制限・要休業などの就業判定を行います。

面接・保健指導とフォロー

長時間労働により脳・心臓疾患などの発症リスクが高まった労働者には、産業医の面接が義務付けられています。うつ病など精神疾患の発症予防のためにメンタルヘルス面にも十分配慮しながら、必要に応じて職業上の措置の実施、生活習慣への指導、医療機関への受診勧奨を行います。

安全・衛生委員会への出席

労働安全衛生法に基づき、一定の規模に該当する事業場では「安全衛生委員会」を設置し、労働災害を未然に防ぐための対策を講じます。月1回以上の開催が義務付けられており、産業医は委員会の構成員として専門的な立場から意見を出します。
産業医の出席は任意ですが、出席することが望ましいとされています。

専属産業医と嘱託産業医の違い

産業医の働き方は、「専属」と「嘱託」に分かれます。勤務日数や契約形態の違いは、以下のとおりです。

専属産業医(常勤) 嘱託産業医(非常勤)
勤務日数 週3日~5日常駐 月1回程度、数時間勤務が一般的
契約形態 企業と直接的な雇用契約 雇用契約以外にも委託契約が目立つ

専属産業医とは

専属産業医は、従業員500人以上の有害業務(例:有害放射線や有害物に関係する業務)に従事する事業場、もしくは1,000人以上の従業員を抱える事業場に所属する産業医のことで、専ら企業組織の一員として常駐します。
“専属”であるため、複数の事業場を掛け持ちしても良いということにはならず、基本的には一つの事業場のみに属していることを要します。

法令上、明確な勤務日数や勤務時間が定められておらず、契約内容は企業ごとに異なりますが、社会保険の加入対象となり得る週3日以上×1日8時間のフルタイムでの勤務条件が主となります。


嘱託産業医とは

常時50人以上、999人以下の労働者を使用する事業場(有害業務に従事している労働者が常時500人以上は除外)においては、産業医の選任形態は嘱託(非常勤)でも可能となっています。

嘱託産業医は勤務医や開業医が兼務している場合が多く、月1回、2時間程度の勤務が一般的です。
職場巡視や従業員への面接の日時は企業と調整しながら決定するため、比較的勤務時間の自由度が高く、複数企業を掛け持ちすることも可能です。

産業医の平均年収

産業医の平均年収

ここまで、産業医の仕事内容や専属・嘱託の違いについて見てきました。

では、産業医の平均年収はどのくらいなのでしょうか?専属産業医・嘱託産業医、それぞれの年収と報酬相場を解説します。

専属産業医の平均年収

民間医局で2016年11月~2023年10月に常勤の産業医として成約した方のデータを算出したところ、専属産業医の平均年収は960万円~1,470万円でした。年代別の平均年収は下表をご覧ください。

年代別の専属産業医(常勤)の平均年収
年代 平均年収
20代後半 966.4万円
30代前半 1,152.1万円
30代後半 1,154.1万円
40代前半 1,220.0万円
40代後半 1,171.3万円
50代前半 1,342.4万円
50代後半 1,471.8万円

民間医局の常勤成約実績をもとに作成

企業の規模や業種、医師の経験やスキル、地域によって年収は大きく変動します。さらに統括産業医など、組織のマネジメントを任される管理職の場合などは年収が高い傾向にあります。

嘱託産業医の報酬相場

非常勤として月1回、2時間程度の勤務で月額報酬5万~10万円程度が一般的です。

2024年8月30日時点で民間医局に掲載されている定期非常勤の産業医求人から算出したところ、嘱託産業医の平均給与は1回あたり44,833円でした。しかし求人によって勤務時間や条件が大きく異なるため、参考程度にご覧ください。

嘱託産業医は複数企業を掛け持ちできるため、うまくスケジュールを調整すれば、外来や当直アルバイトより多くの収入を得られることもあります。

産業医として働くメリット

厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、医師の平均年収は1,428.8万円(平均年齢44.1歳)です。それに比べると専属産業医の年収は低いようにも感じられますが、勤務時間が比較的短いことや、急変など緊急時の対応・負担が少ないことを考えれば、収入に対する満足度は高いと言えるでしょう。

産業医として働くメリットとして、次の3つがあげられます。

優れたワーク・ライフ・バランス

専属産業医は週3~5日の平日勤務が多く、残業も臨床医に比べて少ないことが特徴です。
救急や当直、夜間や休日の呼び出しなど緊急性の高い業務はなく、ワーク・ライフ・バランスの取りやすい働き方ができます。

医師の専門知識を活かした社会貢献

労働者の健康を守ることは、その家族を守ることでもあり、企業にとっては経済活動の維持や活性化に欠かせない大切な要素です。産業医は日本の産業を支える役割を担っていると言っても過言ではありません。
医学の専門的立場から日本経済の発展などに貢献できるのは、産業医ならではの醍醐味です。

予防医学や公衆衛生の経験が積める

治療という事後的対応ではなく、予防医学の介入によって病気やケガが発生するリスクを軽減することも産業医の大きな役割の1つです。
体の病気や怪我だけではなく、メンタルヘルスへの対応、セクハラやパワハラ問題、疾病予防の啓発や対策、さらに最近ではコロナ禍での職域における感染症予防対策など、産業医は公衆衛生の一環も担っています。

産業医になるには

産業医になるには

産業医になるための要件としては、医師であることに加え、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならないとされています(労働安全衛生法第13条第2項)。

具体的には、以下のとおり規定されています(労働安全衛生規則第14条第2項)。

     
  1. 労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって厚生労働大臣の指定する者が行うものを修了した者
    これに該当する研修会は、日本医師会認定の産業医学基礎研修や産業医科大学の産業医学基本講座などがあります。
  2.  
  3. 産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であって厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であって、その大学が行う実習を履修した者
  4.  
  5. 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生である者
  6.  
  7. 学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師(常時勤務する者に限る)の職にあり、又はあった者
  8.  
  9. その他厚生労働大臣が定める者(現在、定められている者はありません。)

そのなかでも、一般的には日本医師会認定の産業医学基礎研修を修了される方が多く、多くの医師が日本医師会認定産業医の称号(認定)を受けています。

日本医師会の産業医学基礎研修を修了

日本医師会や都道府県医師会で実施している産業医学基礎研修を50単位以上修了し、申請すると、「日本医師会認定産業医」の称号が付与され、認定証が交付されます。
認定証の有効期間は5年間です。その間に産業医学生涯研修を20単位以上修了しないと日本医師会認定産業医の称号(認定)を喪失するため、注意が必要です。

詳しくは日本医師会の「日本医師会認定産業医制度」をご覧ください。

産業医が企業にもたらす価値とは

産業医が企業にもたらす価値とは

事業場の環境や従業員の健康を良好に保つため、企業目線で課題解決に取り組む産業医は、企業に大きな価値をもたらします。

臨床医は病院やクリニックで診療することで利益をもたらす立場にありますが、産業医が企業にもたらす価値は、単純な利益では表せないほど大きなものです。

産業医の役割は予防医学などディフェンス的な側面が強く感じられるかもしれません。しかし企業は自社のイメージやブランド価値の向上といった、オフェンス的な側面も産業医に期待しています。企業が産業医に期待する価値とはどのようなものか、詳しく見てみましょう。

ディフェンス的な価値

離職率の低下

産業医による面談は健康問題やメンタル不調などの予防となり、心身不調による従業員の休職や離職などを防ぎます。
従業員の定着率が高くなることで、採用や教育・育成にかかるコストも抑えられます。

職場環境の改善

産業医が職場を巡視し、労働環境が改善することで従業員のストレスが軽減され、働きやすさも向上します。
また、日本女性の月経随伴症状による年間労働損失は約5,700億円と試算されており、女性が働きやすい職場環境を整備できれば、企業成長に大きく貢献することができます。

生産性の向上

産業医によって健康で安全な働きやすい職場環境へと改善されることは、従業員の集中力とモチベーションアップにつながり、生産性も向上します。

オフェンス的な価値

企業イメージとブランド価値の向上

上場企業では、経済産業省選定の「健康経営銘柄」に入ると投資家からの評価が高まるなど、産業医による健康経営への取り組みは企業イメージとブランド価値を大きく向上させる効果があります。

優れた人材確保とビジネスチャンスの拡大

産業医により従業員の健康と安全確保に努め、ワーク・ライフ・バランスや健康経営に優れた企業は求職者の評価が高く、優秀な人材確保にもつながります。また、社内においては従業員の帰属意識を高めることもできます。
さらに取引先からの信頼も得やすくなるため、業績向上やビジネスチャンスを広げることにもつながります。

産業医を目指すなら、企業の求める人物像と自分を照らし合わせることが大切

産業医を目指すなら、企業の求める人物像と自分を照らし合わせることが大切

「産業医に興味があるけれども、自分は向いているのだろうか?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。

特に専属産業医として転職を希望するのであれば、「どのような人が産業医に向いているのか?」「企業から高く評価される産業医とは」を理解しておくことが大切です。さらに自分のもつスキルや個性、強み・弱みを把握し、企業の求める人物像と照らし合わせると良いでしょう。

民間医局では、産業医を専門とする担当者が全面的にバックアップします。一人ひとりのご希望をお伺いすることはもちろん、ヒアリングを重ねながら、これまで気が付かなかった自分の個性、強み、適性、可能性を引き出して最適な企業へと結びつけます。

企業の数だけ、求めている産業医の性質も働き方も異なります。最適な企業の紹介、そして内定までを全面的にサポートできるのが民間医局の大きな強みです。
産業医に興味のある方は、お気軽にご相談ください。

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民間医局の常勤成約実績概要

  • 2016年11月~2023年10月に、民間医局を利用して専属(常勤)産業医として成約された医師会員のデータから算出。年代によってサンプル数が異なるため、本記事は参考値としてご覧ください。
  • 年収の数値は、常勤先の固定給+採用条件で決まっている諸手当・賞与を含んだ額です。変動する手当、外勤アルバイト代、講演・執筆料などは含まれていません。

※参考サイト、データ