疼痛管理と再生医療手技以外の手法も強化
技術進化を続ける人工膝関節手術は、さらなる高みを目指している。その一環として桑沢氏が取り組んでいるのが疼痛管理。外科手術の中で5本の指に入るほどの痛みを伴う手術であるため、神経ブロック注射を工夫して使い、痛みの軽減を図っている。
「モルヒネなどの痛み止めを多用すると、嘔吐や便秘、うつを引き起こしてしまう。副作用なく痛みを取って、リハビリに前向きになってもらいたいと考え、神経ブロックに行き着きました」
筋肉の感覚ニューロンと運動ニューロンは近いところにあり、痛みを取るには感覚ニューロンにだけ薬を入れる必要がある。針を刺す角度や深さ、薬の濃度や流すスピードまで細微に調整し、疼痛管理に努めている。
「ここ10年ほどで手術の完成度が高くなったからこそ、その他の部分でもっと高みを目指したい。医師も努力し続けなければ、患者さんに『がんばって』と言えないですから」
さまざまな事情で手術ができない患者には、再生医療を勧めることもある。患者自身の血液から必要な成分を抽出して注射するので、拒絶反応や副作用がなく安全性が高い。手術ほどの治療効果は見込めないが、関節の炎症を抑え、変形を遅らせる可能性が期待されている。だが、手術に比べエビデンスが少ないのも事実。そのため、ただ症例数を増やすだけではなく、「この症例にはこれだけ効く」といったデータをまとめ、治療法を確立していくことも使命に感じている。それは、世界トップクラスの症例数を誇る自負でもある。
症例数の多さや高い技術が注目されがちな桑沢氏だが、院内のクリスマスコンサートで趣味のハープを奏でたり、術後患者の脚を冷やすためのカバーを手縫いしたりするなど、温かな心遣いも光る。
「患者さんが喜ぶためなら、何だってしたい。関節だけでなく、生活全体を良くしたいと思っています。でも、布を縫うより人を縫う方が得意ですけどね(笑)」
院内着はもっとオシャレでいい。包帯がカラフルだっていいし、ギプスに飾り付けしたっていい。固定観念を取り払った発想の源にあるのは、患者が楽しく幸せになること。「医は仁術なり」を地で行く人だ。