発想力、行動力、Something differentで医局再生に導く循環器内科医 重城 健太郎

医師のキャリアコラム[Challenger]

重城 健太郎(埼玉医科大学総合医療センター 心臓内科 教授)

聞き手/ドクターズマガジン編集部 文/横井かずえ 撮影/緒方一貴

埼玉医科大学総合医療センター心臓内科の重城健太郎教授は、既成概念にとらわれない着想と実践で道を開く“仕掛け人”だ。人見知りだった大学時代、自らの弱点を克服する過程で、多くの仲間とチャンスを引き寄せる力を身に付けた。現在は、周囲を巻き込む発想力と行動力で医局を再生。循環器内科専門YouTubeチャンネルにして登録者数2万人を超える「ジャーナルクラブオンライン」を運営し、大学の垣根を越えて知をつないでいる。「ゼロから1を生み出すのは難しい。でも、人と少しだけ違う工夫ならできるはず」。その信念が貫く、“Something different”な歩みを追った。

人見知りの克服が医師人生を開くカギに

父、母、兄弟3人の家族全員が医師という家庭で育った。有床クリニックを開業し、忙しそうな両親を見て、当初は医師になるつもりはなかったという。それでも進路を考える段階で、「医師は人から感謝される究極の職業である」という考えに至り、自分も同じ道に進もうと決心。東京慈恵会医科大学へと進学した。

大学時代は学業や部活動より遊びに時間を費やした。ただし、1つだけ意識的に取り組んだことがある。それは「自分から声を掛け、知り合いを増やすこと」。この習慣が、後の医局運営や「ジャーナルクラブオンライン」「SUNRISE研究会」などの若手教育の場の設立において役立つことになる。

「元々、人見知りで、初対面の人と話すのが苦手。だからこそ、学生のうちに克服しようと思いました」

循環器内科を選んだのは、老若男女幅広く診られることと、手技がある診療科だから。同じ理由で、当初は整形外科を考えていた。

「整形外科に進もうとしたところ、父に『人の生き死にに関わる科に進むべきだ』と反対され、次に、父と同じ外科医への道を考えたところ『これからは低侵襲治療が中心になるだろうからやめておけ』と。そんな時、友人が循環器内科に進むと聞き『循環器なら父の言うことにも合致する』と考えました」

転機はメンターとの出会い 苦難の留学で開けた新境地

循環器領域の名門である東京女子医科大学で研修医生活をスタートさせた。研修医時代は、多くの時間を割いてベッドサイドで患者を診ることが医師として一人前になる最短ルートだと考え、ほとんど帰宅せずに病院で寝泊まりした。だが後に、この考えは誤っていたと気付くことになる。

1、2年目はローテーションで内科を回り、3年目に循環器内科へ戻ったタイミングで大学院に進学。そこで、人生を変える邂逅があった。指導に当たってくれた、鶴見由起夫氏との出会いである。

「鶴見先生は、若手の私に対しても1人の医師として真剣に向き合ってくださいました。まさに私にとってのメンターであり、先生との出会いは人生のターニングポイントの1つです」

循環器内科医として精進する日々を過ごしていたある日のこと。予想外のチャンスが巡ってきた。心疾患領域における研究で実績のある、タフツ大学セントエリザベス病院への留学の話が回ってきたのである。

「まだ医師3年目だったので驚きましたが、不安よりも好奇心が勝り、留学を決めました」

留学先は心血管研究のラボで、世界各国から研究者が集まる国際色豊かな環境だった。日本の常識は通じず、苦い経験をすることも多かった。

日本では待っていれば患者が来るが、ここでは自ら仕事を探さなければ何も始まらない。課題を見つけ、その仕事で結果を示すーーその繰り返しは決して容易ではなかった。しかも最初の1年は無給という状況。当時は英語もうまく話せず、周囲とのコミュニケーションも希薄になった。医師人生で唯一、つらく厳しかった時代だと回顧する。

「臨床をしていた時は、黙っていても次から次に来る患者さんを診察することが仕事だった。しかしアメリカでは、長時間ラボにいても、それだけでは評価されない。目標を定め、予算申請からスケジュール管理まで、研究を形にするためのセルフプロデュースが求められます。そこで痛感したのは、以前の私はただ体力に頼った努力をしていただけで、本当の意味での努力ではなかったということでした」

そんな日々を1年ほど続けた頃、転機が訪れた。ボスの異動に伴い、ノースウェスタン大学ファインバーグ研究所へ移ることになり、そこで研究室をゼロから立ち上げる役割を担うことになったのである。

「実験用動物の手配から試薬の選定まで、新しいメンバーと一緒に一から整えていきました。コミュニケーションの機会も増え語学力も上達し、頼られるようになり、さまざまなことが良い流れに乗り始めたのです」

ガラパゴス的発想から脱却 異文化から得た価値観

留学によって得た学びは数多くあるが、その一つが「徹底的に言語化することの重要性」だった。きっかけとなったのは、ラボでのある出来事だ。

マウスへの挿管や心筋梗塞モデルの作製、血管の手術など、動物実験における高度な手技を身に付けていたある日のこと。ボスからラボの見学者への対応を任された。翌日やってきたその医師は、開口一番、「自分はその手技を明日までにできるようになりたい。全て説明して、すぐにできるようにしてほしい」と告げてきた。

あまりの率直さに驚いた。日本では、初対面で年上の相手にこうした要求をすることはまず考えられない。重城氏は、数カ月かけて習得した技術を1日で何とか教え切った。

すると自分の中でも手技のポイントがよりクリアに認識できた。こうした経験を重ねる中で「言語化して伝えること」の大切さを強く意識するようになる。

「神の手を称賛するのはガラパゴス的だと感じます。身に付けたことは言語化し、再現性のある形で伝えなければならない。この気付きは、教育に対する価値観を大きく変えました」

アイデアマンの力を発揮 全方向良しで医局を活性化

4年間の留学を終え、2009年に東京女子医科大学循環器内科の助教として帰国。若くして留学したため、10年近いキャリアがあるにもかかわらず、カテーテル治療の経験数はゼロに等しかった。

そこで、国内有数のカテーテル治療実績がある豊橋ハートセンターへ武者修行に出る。研ぎ澄まされた術者の手技から、何を考え、どう判断し、手を動かしているのかを徹底的に学び、実践した。

翌年には西新井ハートセンター病院に着任。循環器内科医が3人ほどという、小規模体制の病院であったが、重城氏いわく、少人数で規模が小さいということは、裏を返せば自分の裁量が大きいということ。手技を思う存分に研鑽するためにプラスに働いたという。

カテーテル治療医として後発だったからこその強みもある。それはカテーテル治療だけではなく、罹患者が増えている心不全をはじめとした、あらゆる心臓血管病を幅広く研究対象にするべきだという俯瞰した視点が養われたことだ。

実際、重城氏の研究テーマは、フレイル・サルコペニア・社会的孤立のような、非循環器的要素と心不全との関係をはじめ、インターベンションから薬物治療、さらには生活習慣・社会医学までを網羅し、循環器内科を総合的に捉える幅広さがある。

西新井ハートセンターで約4年半を過ごした後、再び東京女子医科大学へ。診療・教育・研究に携わり、多くの信頼できる仲間を得た。

その後、2022年4月にカテーテル治療の強化を目的として埼玉医科大学総合医療センターに招聘され、心臓内科准教授に就任。翌年10月には教授に昇任した。

就任してまず取り組んだのが、人材の確保だ。当時の医局は数年入局者がおらず、人員不足に陥っていた。そのため近隣の医療機関からの紹介依頼にも十分に応えられない状況が続いていた。人員が増えれば、治療の拡大と同時に、個人の業務のノルマを最小限にすることも可能だ。医局員それぞれが学びたいことに没頭できる環境がつくれる。

「循環器内科はハードなイメージから避けられることもありますが、僕たちにしかできない形で人を助けることのできる魅力的な診療科で、潜在的な志望者は多いはず。着任後の1年間は人材確保に全力を注ぎました」

人材確保のために取り組んだことは多岐にわたるが、一貫して大事にしているのは一人一人の話を深く聞くこと。これは鶴見氏の教えである。コミュニケーションを活発に、楽しい雰囲気をつくる。そして「何でも挑戦してみる」という風土を育てることが大事だと言う。

例えば、重城氏のアイデアマンとしての力が発揮されたものとして、地元の川越まつりへの出展がある。

出展ブースでは地域住民の血圧測定を行った。手首式、上腕式、手動式の3種類の血圧計で測定し、その差異を記録。血圧が高めの人には近隣の医療機関名が入ったうちわを配布し、行政には地域住民の健康データをフィードバック。さらに自分たちは、血圧計の種類による数値の違いを論文としてまとめ、近く公表を予定している。地域や行政、医療機関の全ての関係者にとってメリットがある、“全方向良し”の取り組みである。

楽しく、自由な発想による教育の充実で徐々に医局に医師が集まってきた。重城氏が教授に就任した翌年の2024年に6人、2025年には5人の入局者を迎え、若手医師も増加した。

YouTubeと研究会で広がる年齢・役職関係ない学びの輪

重城氏は、登録者数2万1400人※を有するYouTubeチャンネル「ジャーナルクラブオンライン」の運営者でもある。ここでは、20~30人の医師が心臓血管病に関する最新の論文を持ち回りで紹介し、その背景や意義を解説した上で、ディスカッションを行っている。2、3日に1度更新され、5年半で1000以上の動画を公開。現在では日本循環器学会の公式チャンネルにも認定された。

印象的なのは、教授である重城氏と、若手医師の対等なやりとりによって進行していくところだ。「新しい知識を持つ人が教える」というごくフラットな学びの場なのである。重城氏も純粋な質問を投げかけ、ここで学ぶ。年齢や役職は関係ないのだ。

動画が話題となり、視聴者が増えたことで、医局の認知度が上がるという副産物も得た。動画をきっかけに「ここで学びたい」と興味を持つ医師もいる。こうしたさまざまな新しい試みが成果を結び始め、今では、大学内でも屈指の医局へと発展している。

教育面での取り組みとして、慶應義塾大学の林田健太郎氏、近畿大学の中澤学氏らと立ち上げた「SUNRISE研究会」の活動も注目だ。研究会では毎年、留学を志す若手循環器内科医を対象とした、英語プレゼンテーションによるコンペが行われる。参加者は留学の目的や、20年後を見据えたキャリア戦略などを発表する。主催者や協賛企業が審査し、優秀者には留学資金の一部が提供される。若手時代に留学を経験したからこその応援企画であり、共に学ぶ仲間づくりの場でもある。

多彩なアイデアの源泉には、「常識を疑え」という揺るぎない信念がある。その信念は、東京女子医科大学時代に診療した患者と向き合う中で芽生えたものだ。

あらゆる治療を試みても「これ以上は難しい」と周囲が判断した患者がいた。しかし重城氏は、実践していない手段があることに気付き、「最後にこれだけやらせてほしい」と懇願し、治療を行った。結果、患者は回復し、以後3年以上、再入院もせずに元気な生活を送ったという。

「誰もが当然と思い込んでいることこそ、自分の目で確かめて検証する必要がある。そういった視点で物事を捉えると、研究のネタやアイデアが自然と生まれてきます」

※ 2025年12月時点

新しい教育と評価制度が医局を救う一助となる

重城氏のアイデアは尽きない。現在構想しているのは、いわば「医局版のリーダー認定制度」だ。民間企業ではマネジメント研修やリーダー教育が一般化している一方、医局には同様の仕組みが存在しない。その結果、組織運営で成果を出せず、魅力を十分に発揮できていない医局が多いと重城氏は指摘する。

「医局の価値を高め、優秀な人材に長く活躍してもらう環境づくりが重要。その一助になるのが、リーダー認定の仕組みと考えています。人材育成やマネジメントを学んだ人がこれだけいる、という認証が、医局の魅力として客観的に打ち出せる。良い医局の“見える化”です」

これまでにない発想だが、独自のアイデアを公開してしまって良いのだろうか。

「アイデアは自分だけで抱えていても意味がありません。オープンにすれば、『一緒にやりましょう』と言ってくれる人が現れるかもしれない」

既存の常識にとらわれない発想と行動力で、自ら道を切り開いてきた重城氏。その根底には、生涯の指針ともいえる言葉がある。

留学時代、鶴見氏と共に訪れた、ある恩師の墓石に刻まれていた一文だ。ユダヤ人墓地の一角に静かに立つその墓には、こう記されていた。

“全く新しいものを生み出すのは難しい。でも、人と少しだけ違うことーーSomething differentならできる”

「Something differentの積み重ねが、新しい世界の扉を開くと信じています」

そう言いながら輝かせた目は、アイデアとひらめきに満ち、次なる挑戦を見据えていた。

P R O F I L E
プロフィール写真

埼玉医科大学総合医療センター 心臓内科 教授
重城 健太郎/じゅうじょう・けんたろう

2002 東京慈恵会医科大学 卒業、東京女子医科大学 研修医
2004 東京女子医科大学 循環器内科 医員
2005 タフツ大学セントエリザベス病院 心血管研究室 客員研究員
2007 ノースウェスタン大学 ファインバーグ研究所 心血管研究室 客員研究員
2009 東京女子医科大学 循環器内科 助教
2010 西新井ハートセンター病院 循環器内科 医員
2012 西新井ハートセンター病院 循環器内科 医長
2014 東京女子医科大学 循環器内科 助教
2019 東京女子医科大学 心臓血管診療部 講師
2022 東京女子医科大学附属足立医療センター 心臓血管診療部 講師、埼玉医科大学 総合医療センター 心臓内科 准教授
2023 埼玉医科大学 総合医療センター 心臓内科 教授

専門

虚血性心疾患、冠動脈カテーテル治療、末梢血管カテーテル治療、心不全、再生医療

所属

日本心臓病学会
日本心不全学会
日本内科学会
日本心血管インターベンション治療学会
日本循環器学会
ヨーロッパ心臓病学会

※こちらの記事は、ドクターズマガジン2026年2月号から転載しています。
経歴等は取材当時のものです。

新たなキャリアの可能性を広げましょう

「チャレンジをしたい」「こういった働き方をしたい」を民間医局がサポートします。
求人を単にご紹介するだけでなく、「先生にとって最適な選択肢」を一緒に考えます。

ご相談はこちらから