世界最高の医療を提供する 活動の原点にある思い
2019年から厚生労働省の「医師の働き方改革の推進に関する検討会」の構成員に加わった。元々、医師の働き方に問題意識を持ち、検討会での議論を度々傍聴していたことがきっかけで、厚労省の担当者から声を掛けられたのだ。最年少の30代、しかも一医師の立場で国の専門家会議に招聘されるのは異例の抜てき。周囲からの期待も大きいが、鈴木氏に力みはない。
「月10回近い当直や呼び出しなど、私自身も相当な無理をして働いてきました。疲れた状態で診療を行えば医療の質は確実に落ちる。その状況を変えたい」
さらに2022年から2年間、日本専門医機構の理事を務め、現在も複数の委員会に参加している。「専門医育成の仕組みは専攻医の働き方に直結する。だからこそ、機構の中に若手・中堅医師が意見を言える場をつくっておきたい」と鈴木氏は言う。
2024年に帰国し、現在は神奈川県立がんセンターに勤務している。アメリカ留学中から取り組んでいるのが、“アウトカム・ヘルスサービス研究”だ。これは、医療が実際に患者にもたらす結果と、その医療体制・制度の在り方を検証する研究だ。
鈴木氏の研究テーマは、婦人科がん患者のオンコメノポーズ。がん治療による閉経のことで、卵巣の摘出で閉経になった患者に対してのホルモン補充療法の実態をビッグデータから分析している。がんが治ってもエストロゲンが減少することで骨粗しょう症や動脈硬化が進んでしまうことがあるが、これまで適切な治療をされずに放置されている患者が多かった。「がん治療によって生命予後やQOLが損なわれる女性の未来を改善したい」という思いで研究を進めている。
アウトカム・ヘルスサービス研究で分析するのは、治療の予後だけではない。
「例えば、ナッジによって行動を変えることや、医師の働き方改革によっても、患者さんへのアウトカムは変わる。さまざまなアプローチがあり、それらは目の前の患者さんに世界最高の医療を提供することにつながっているのです」
婦人科診療、がん予防の研究、ビッグデータ解析、日本専門医機構への参加、若手医師教育……これまでの鈴木氏の多彩な経験は、アウトカム・ヘルスサービス研究につながっていった。
しかし、日々、婦人科医としての診療をしながら、これだけ多くの活動をするのは並大抵のことではない。その原動力になっているのは臨床での体験だ。
婦人科では若いがん患者を何人も診てきた。今でも忘れられないシーンがある。若い母親が亡くなり、茫然と立ち尽くす父親と残された小さな子どもの後ろ姿。何と声を掛ければよいのか分からなかった。鈴木氏が“目の前の”患者にこだわるのは、助けられなかった悔しさがあるからだ。だから、どれだけ政策や組織づくりに関わろうとも臨床を離れるつもりはない。
「キャリアドリフトができたのは、先代の平原教授と現教授の宮城先生をはじめとする医局の温かいサポートがあったからこそ。今までバラバラに取り組んできたことを、これからはつなげて社会に役立てたい」
あらゆる境界を飛び越えながら、患者へのひたすらに真っすぐな思いを胸に、鈴木氏は大きな夢を追っていく。