外来、病棟、在宅とフィールドを広げ地域も診る総合診療医育成リーダー 近藤 敬太

医師のキャリアコラム[Challenger]

近藤 敬太(豊田地域医療センター 総合診療科・在宅医療支援センター長/藤田医科大学 連携地域医療学 助教)

聞き手/ドクターズマガジン編集部 文/佐藤恵 撮影/太田未来子

「19番目の専門医」として立ち上がった総合診療医。OECD加盟国では医師数の平均2、3割が総合診療医といわれるが、日本では歴史も浅くまだまだ少数なのが実情である。超高齢化に伴う多疾患併存の増加が課題となっている今、「誰でも診る、何でも診る」総合診療医の必要性と重要性は言をまたない。

豊田地域医療センターの在宅医療支援センター長である近藤敬太氏は、日本最大規模の総合診療プログラムである藤田医科大学総合診療プログラム(通称・藤田総診)のリーダーとして、主要研修施設である同センターの医師30人以上、在宅部門100人のスタッフを束ね、800人あまりの在宅患者を診療している。

苦悩と苦労に満ちた少年期、アイデンティティクライシスに陥った研修医時代を経て選んだ総合診療医の道を、実直かつエネルギッシュに駆け抜ける近藤氏に話を聞いた。

健康は幸せの絶対条件ではない 患者が望む生活を支える医療

父はMR、母方の祖父母は豊田市で老人保健施設を運営し、母もその施設で働いていた。しかし、近藤氏が小学校2年生の時に両親が離婚。近藤氏は、父と共に三重県にある父方の祖父母の家に身を寄せたが、高学年になった頃に状況が一変。祖母が脳卒中で倒れて半身麻痺になり、祖父と近藤氏で介護を担うことになった。中学生になると、家計を助けるためにアルバイトを始め、学校と介護との三重生活を送るようになった。

WHO(世界保健機関)は、健康の社会的決定要因として、社会的格差、ストレス、幼少期、社会的排除、労働、失業、社会的支援、薬物依存、食料、交通の10項目を挙げており、その根底には貧困があると考えられている。近藤氏には合致する要素が多いが、必ずしもネガティブではなかったと振り返る。

「病気や貧困は不幸というラベリングをされやすいですが、友達の親がご飯を食べさせてくれたり、『ウチの子になってもいいよ』と言ってくれたり、地域の人たちに助けてもらって。当時は暗い過去ではなく、幸せだったんです」

患者目線の医療、地域で暮らす人のための医療に取り組む原点は、こうした少年期の生活にあった。

そしてもう一つ忘れられないのが、近藤氏が医師になってから、妻を介護する男性から言われた言葉だ。

「先生、健康で幸せになることを目指さないといけないのでしょうか」

地域医療のスローガンとして「健康で幸せなまち」を掲げてきた近藤氏にとって、それは衝撃だった。

「健康かどうかという条件なしに、その人の幸せや真のニーズを見つけて、それをかなえるためにどうするかを、私たち医療者は考えなくてはならない」

半身麻痺になっても、親身になって介護してくれる家族がいた祖母は不幸ではなかった。欲しいものも買えず、カップ麺とおにぎり1個でお腹を満たした中学生の自分も不幸ではなかった。幸せの形はそれぞれ違う。それを教えてくれたのは少年時代の自分だった。

「よくある病気の専門家」に 迷いは自信と誇りに変わった

総合診療医の育成リーダーとして活躍する近藤氏だが、研修医時代は、「ERトヨタ」と呼ばれる救急外来で知られるトヨタ記念病院で循環器内科医を目指していた。

「人の命を次々と救う姿が、とにかくカッコよく見えました」

研修医2年目の時、藤田医科大学で現在の「総合診療プログラム」の前身である「家庭医療専門研修プログラム」がスタートし、見学に行ってみたものの“家庭医”を“カテ(カテーテル)医”と聞き間違えるありさまだった。初めて、総合診療医について調べてみると、その必要性と重要性に比して日本では数が圧倒的に少ないことを知った。しかし、循環器内科医の道も諦めきれない。悩みに悩んだ末、「一人でも多くの人を救える道を選ぶ」という行動基準を決めた。

「循環器内科医なら年間数百人は救えるかもしれない、でも、総合診療医としてプライマリ・ケアの段階で関われば、病気になる前の多くの人たちを救えるかもしれない。さらに教育に携わって総合診療医を増やせば、救える患者さんがもっと増える」

近藤氏は藤田総診の実質一期生として専門医研修をスタートした。しかし1年ほどが経ち、他施設の同期医師と情報交換する中で、次第に近藤氏のアイデンティティが揺らいでいく。

「オペをやった、カテもできるようになったという話を聞いた後に、自分は『外来やって、在宅やって、患者中心の医療を……』と言うと、『それはみんなやってるよ』と言われてぐうの音も出なかった」

スキルを積み上げていく領域別の医師に対して、総合診療医は診る範囲を限りなく広げていくことが求められ、成果が可視化しづらい。近藤氏はじくじたる思いを抱えていた。

それからさらに1年が経った頃、同期のグループLINEで「子どもがケガをして爪が剝がれた」というメッセージが流れてきた。近藤氏が対応策をアドバイスすると、とても感謝された。

「メンバーには小児科医もいましたが、子どもの爪は小児科でも外科でも皮膚科でも専門とはいえない。でも、総合診療ではよくあることなんです」

次第に、アイデンティティが一つの像を結び始めた。

「“よくある病気の専門家”は自分しかいない、と気付きました。『何でも相談して』と言えるのが総合診療医なのだと」

それまでの悩みは、自信と誇りに変わっていった。そして医師6年目には、半田中央病院での総合診療科立ち上げの責任者として赴任。「大変なことしかない1年間」だったが、病院の意識改革の旗振り役として多職種へのレクチャーを重ね、立ち上げに成功。名実ともに総合診療医になった瞬間だった。

在宅の看取りに必要なのは「生きてきた時間」を知ること

「誰でも診る、何でも診る」総合診療医の重要な仕事に、在宅医療での看取りがある。近藤氏いわく「全ての人間が経験する唯一の病気」が死であり、看取りは総合診療医の責任だという。看取りにおいて特に大切にしているのは、その人が「生きてきた時間」を深く知ることだ。

「80歳で在宅医療を始めて82歳で亡くなる方がいるとしたら、私たちが関わるのはたった2年。でもその2年は80年の人生の上に成り立っている。この歴史を知らずに、患者さんの望む最期を迎えるサポートはできないです」

仕事に誇りを持っていたこと、失恋で落ち込んだこと、子どもの誕生にうれしくて泣いたこと――。一人一人、唯一無二の人生を歩んだ患者から最後の2年を託される、在宅医療とはそんな重要な仕事なのだ。

ライフレビュー(人生の回想)によって終末期患者のQOLが上がることは、多くのエビデンスが示している。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)が推奨されているが、その人の人生史を知ることで、どんな医療を受けたいか、残された時間をどう生きたいかが見えてくると近藤氏は言う。

「こういったことを大事にしている人だからきっとこういう選択をするだろう、といったことが理解できる。死に方ではなく生き方の話をするのがACPですから」

在宅医療では、患者との信頼関係を築くのはもちろん、患者家族や多職種、福祉のスタッフとの連携も欠かせない。医療技術だけでなく、想像力、対応力、交渉力、危機管理能力など総合的な人間力が求められる場面が多くある。

「在宅医療では、関わる人全員の力を把握して最大化することが重要。医師は、患者さんの状況次第で、今どのパワーを強めるかを考えて調整する指揮者の役割を担います」

多様な楽器をそろえたオーケストラほど、音に厚みが出る。しかし、個々の音がぶつかり合っては音色が乱れてしまう。同じ曲でも指揮者によって聴き応えが変わるように、患者の生活が幸せなものになるかどうかは総合診療医の手にかかっている。

地域文化や文脈も理解し地域の健康まで診る

近藤氏は2週に一度、過疎化が進む中山間地の愛知県豊田市稲武地区でフィールドワークを行い、「地域志向型ケア」の研究を行っている。

地域志向型ケアとは、患者個人の診療にとどまらず、医師が、患者の暮らす地域の健康状態の分析や課題解決に積極的に介入する取り組みのこと。医師は医療技術の提供者というより、地域のニーズを掘り起こして満たすコンサルタント的な役回りを担う。

「実際に地域を見て、必要な医療は何かというプライマリデータを得る。地域に出ていくと、健康相談を受けたり病院の悪口を聞いたり、行かなければ知り得ない課題がたくさん見つかります」

人間の寿命は、長くても約100年。しかし地域に出ていくと、その100年が数百年、数千年単位の文化に支えられていることがよく分かるという。

その例として近藤氏が挙げたのが、豊田市で毎年10月に行われている「挙母(ころも)祭り」。五穀豊穣を願って江戸時代から行われている祭りで、荒々しい山車が町中を引きまわり、多くの観光客を魅了する。ある年の前夜祭の日、町で慕われていた人が山車にひかれて命を落とした。しかし地元民が翌日の本祭を決行したことで、全国から非難を浴びたのだ。

「非難は当然です。でも、亡くなった人も地元の人も祭りに命を懸けている。決行することがその人の供養になり、中止なんてあり得ないというのがその地域の文化であり、思いなんです」

命より大切なものはない。しかし、地域の文化や文脈が人々の人生観や死生観に大きく影響していることを理解しなくてはできない医療やケアがあるのだ。

外来・病棟・在宅医療まで教育 独自の「家の診かた」教える

2015年にスタートした藤田総診は、大学病院で真の家庭医療・総合診療を専門とする医師を育成するプログラムであり、日本最大規模の専攻医数を誇る。

現在近藤氏は、本プログラムの主要研修機関である豊田地域医療センターの総合診療科・在宅医療支援センター長として、在宅医療専門医を目指す医師への指導を行う。

「岡崎医療センターでは病棟管理メインの総合診療、豊田地域医療センターでは外来、在宅も診る総合診療の研修を行っています。ホスピタリストと在宅医どちらも育てられる環境があります」

在宅医療では「とよち訪問診療マニュアル」を作成。“とよち”とは豊田地域を略した名称である。「とよち在宅10箇条」によってマインドセットをし、マイルストーンの設定によって成長の過程を明確にしている。on the jobトレーニングでは、約1カ月間、専攻医の訪問診療に指導医が同行して共に診療を行う徹底的なシャドーイングを行う。

若手医師が多い医局では、常にディスカッションや勉強会を実施しており、明るく活気がある。また、専攻医へのきめ細やかなフォローも人気の秘訣だ。

「最初の1年は固定プログラムですが、2年目からは研修先の希望や進度に沿う形を考えます。100人いれば100通りのプログラムを作ります」

また、リカレントの医師への指導にも工夫が見られる。

「スキルを積み上げてきた領域別専門医にとって、幅広い患者さんを担当する総合診療は、さながらOSを入れ替えなくてはならないほど別次元。ガラッと入れ替えた方がいい人もいれば、『総合診療というスキルを積み上げる』と考えた方が習得しやすい人もいる。その人によって指導方法を変えています」

在宅医療で心掛けていることを聞くと、「家の診かた」を教えてくれた。

「家にあるものは、全部に意味があります。絵や置物はその人の趣味の表れだし、固定電話の近くに書かれている電話番号は重要な人、玄関には宗教観が出やすい。カレンダーに〇〇商店とあれば付き合いが見えてくる。また、患者さんの了承を得てベッドに横になってみると、患者さん目線の景色が分かる。ちょっとヘンな医者ですけどね(笑)」

近藤氏が指導者として意識しているのは、「態度」を見せることだ。例えば、患者に背中を向けない動作は、実際にやってみせないと分からない。現場では、言語化できない態度を教えている。

10年で1000人の育成を目標 総合診療のインフラ化目指す

今後の目標は、10年間で1000人の総合診療医を育てること。総合診療を軸に在宅医療を組み合わせ、急性期以外の全ての医療、介護などをワンストップで提供するコミュニティ・ホスピタルを増やして総合診療医を育成し、全国で総合診療をインフラ化することを目標に掲げている。

「僕は今、豊田市を中心に長野県や、東京都など、過疎地から都心までさまざまな環境で診療を行っていますが、一つ隣の町でも求められる医療が異なることを実感しています。得意分野をつくらず、その地で求められる医療に柔軟に応えられるのが総合診療医の強み。日本全国で患者さんが等しくプライマリ・ケアを受けられる環境をつくることを目指しています」

5人でスタートした藤田総診も、現在は100人以上が在籍するまでに拡大した。しかし、近藤氏に言わせれば「道半ば」だという。

「人数が増えて、今までできなかったことができるようにはなってきた。でもまだまだ成長の途中。外来、病棟、在宅、地域とフィールドを広げてもっと多くの人を救えるようになりたい」

患者対応の基本は「自分の家族や大事な人だったらどうするか」。それを判断基準に持てば、間違うことはないと語る。取材の数日前に新しい家族が増えたという近藤氏は、これからもたくさんの大事な人のために走り続ける。

P R O F I L E
プロフィール写真

豊田地域医療センター 総合診療科・在宅医療支援センター長/藤田医科大学 連携地域医療学 助教
近藤 敬太/こんどう・けいた

2014 愛知医科大学 卒業、トヨタ記念病院 初期研修
2016 藤田医科大学 総合診療プログラム/豊田地域医療センター 総合診療科
2018 聖路加国際病院 一般内科
2019 半田中央病院 総合診療科
2020 藤田医科大学 連携地域医療学 助教
2023 豊田地域医療センター 総合診療科・在宅医療支援センター長

専門医等

日本専門医機構総合診療専門医
日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医
日本在宅医療連合学会指導医・専門医
日本内科学会認定内科医
日本病院総合診療医学会特任指導医
日本医師会認定産業医
臨床研修指導医

※こちらの記事は、ドクターズマガジン2026年5月号から転載しています。
経歴等は取材当時のものです。

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