科学とヒューマニズム 2つの力で患者を支える
腎移植内科医にとって最も重要なものとは何か。最先端の知識や卓越した手技かと思いきや、塚原氏の答えは意外にも「チェックリスト」だった。
「一見地味に思われるかもしれませんが、医療の質と安全を支える土台です。これがあれば、医師の経験や勘だけに頼ることなく、誰もが一定の水準で漏れのない診療が行えます。当院に着任後、当センターにも導入しました」
ある患者は、腎移植手術を受けて2日後に尿タンパクが検出された。腎機能には異常はなく、予期されなかった所見だが、腎移植後の尿タンパクは拒絶反応の初期兆候を示していることもある。チェックリストに従って一つ一つ確認していたことで異変を見逃さず、その日のうちに治療へつなげて事なきを得たという。
塚原氏がもう一つ大切にしていることは、「マインドフル・プラクティス」の実践だ。これはマインドフルネスの考え方を診療に取り入れ、医療者自身のレジリエンスや心身の充実を高めながらより良い診療につなげる考え方である。
「例えば、余命わずかな患者さんを診察した直後でも、足をぶつけて受診した患者さんを同じ集中力で診る。逆輸入された考えで、森鷗外も“全幅の精神”で患者を診るお医者さんを描いています。“いまこの瞬間”に全力で向き合うことは、患者さんにとっても医師にとっても大切なことです」
そんな塚原氏の医師としての原点は、アリゲニー総合病院で勤務していたころに遡る。塚原氏は、集中治療室で人工呼吸器につながれて話せない患者に、拙い英語ながらも毎朝声を掛け続けていた。一般病棟に移って患者と会うことはなくなったが、後日、退院した患者から1通の手紙が届く。そこにはこうつづられていた。
「絶望の淵にいた私に希望を与えてくれてありがとう。きっと神様が私のもとにあなたを遣わしてくれたのでしょう」
渡米したばかりの若いレジデントに、医師としてできることは多くはなかったが、それでも、目の前の患者にできることを精いっぱい続けた。その誠実な姿勢は確かに患者の心に届いていた。
「医師に求められるのは、知識や技術だけではない。ただそばに寄り添うことにも大きな意味がある。そのことを教えてもらった出来事です」
温かな人柄と確かな知識・技術で多職種との連携の根を広げ、不可逆性の臓器を守る腎移植内科医。“いまこの瞬間”に集中し、最善を尽くす。その歩みは、科学とヒューマニズムの両輪で、今日も患者の未来を支えている。