成人救急で身に付けた圧倒的なスピード感
「小児科医療と小児集中治療は何から何まで違いました」
人工呼吸器の導入から心肺蘇生や気管挿管の方法、ショックへの対応……。初めて知ることばかりで、付いて行くのがやっと。それでも、今まで分からなかった小児集中治療の“正解”を知り、自分の中に体系化された知識が積み上がっていくことに大きな喜びがあった。こうして黒澤氏は小児集中治療医としての足掛かりを得たのである。
成育医療研究センターで小児集中治療を学んで2年。転機が訪れる。
「一度、小児科を離れて、成人救急を学ぼうと考えました」
成人に比べると小児の症例は圧倒的に少ない。成人救急でもっと多くの症例を経験し、考えるよりも先に体が勝手に動くようにしたい。今でこそ小児科医が成人救急を学ぶこともあるが、当時はほとんどいなかった。迷いはなかったのだろうか。
「もちろんありました。でも、自分にスキルがないせいで目の前の子どもを死なせたくない。その思いのほうが強かったんです」
先輩の中川氏からは「君がやりたいことをやったらいい」と背中を押された。小児集中治療から成人救急へ。また新たな挑戦が始まった。
神戸市立医療センター中央市民病院の救命救急センターでは、次々と搬送されてくる救急患者にスタッフたちが休む間もなく対応する。そんな救急医療の現場に、黒澤氏は「最初は怖かった」と当時を振り返る。
圧倒されたのはスピード感だ。多くの症例を経験することで医師個人のスキルが高められているのはもちろん、院内システムや人員のかけ方も小児とは違っていた。患者数が少ない小児医療で同じ体制を実現するのは難しいが、それでも成人医療のスピードを体感できたことは、その後、PICUの診療でも大いに役立っている。
多くの成人症例を診るうちに、初めに感じた怖さは徐々に薄れていった。だが、「今も完全には消えていない」と言う。どれだけ経験を積んでも、患者の命に向き合う怖さがなくなるわけではないからだ。それでも成人救急を学んだ3年間で、搬送されてきた患者を診て、自然と体が動くまでになった。
「これで小児集中治療に戻れる」
子どもの命を救いたいという思いは、揺らぐことはなかった。