日々の診療に役立つ漢方の魅力を伝えたい
吉永氏が診療部長を務める飯塚病院の漢方診療科では、年間約1万5000人の外来患者を診ている。他科からの紹介患者も多く、手術後に食欲が落ちているケースや、脳出血の後遺症でめまいを発症しているケースなど、さまざまな相談が持ち込まれる。
現在、同科で力を入れているのが起立性調節障害の漢方治療である。近年の患者の増加に伴い、小児科から依頼されることが増えた。そうしたニーズに応えるために、外来だけでなく入院治療ができるプログラムを作り上げた。
「起立性調節障害の症状である頭痛やめまいは、漢方では“水毒”が原因と考えます。漢方治療に加えて、入院で生活リズムを整えることで症状を改善させます」
全員がすぐに改善するわけではないが、劇的に良くなる患者もいるという。
「全く起きられなかった子が、治療によって日常を取り戻し、病気を乗り越えていく。数年間、治療を続けてきた学生の患者さんから『就職が決まりました』と報告を受けたときは本当にうれしい。子どもたちが成長する姿を見られるのは、医師として大きなやりがいになっています」
地域の総合病院、都市部の大学病院や漢方クリニック、離島や山間部のへき地診療所と、これまでさまざまな環境で漢方診療を実践してきたからこそ、吉永氏はどこでも力を発揮できる漢方の強みを実感している。そんな漢方診療を臨床で適切に取り入れてもらうために、教育、発信活動にも力を尽くしている。
飯塚病院での外来研修を再現した書籍『あつまれ!!飯塚漢方カンファレンス 漢方処方のプロセスがわかる』の刊行をはじめ、母校・自治医科大学の卒業生で地域医療に従事する後輩医師に向けた漢方ウェブセミナーも行っている。また、同大医学教育センター非常勤講師として医学生への漢方教育を担うほか、漢方専門医の診療風景を収録した動画教材の制作にも取り組む。
「漢方は先人たちの知恵の結晶です。それをそのまま受け継ぐだけではなく、現代医療のなかで生かし、効果を確かめながら、次世代が実践できる形で伝えていきたい」
吉永氏の漢方セミナーで学んだ医師たちからは、「全身倦怠感の強い患者さんが元気になった」「マムシにかまれて腫れと熱が引かない患者さんに漢方を処方したら効果があった」と、日々の診療で活用する声がいくつも寄せられる。
「能登半島地震では医療資源が限られるなか、院内にあった漢方を処方して被災地の医療活動に役立った、と知らせてくれた先生もいます」
取材で印象的だったのが、吉永氏が漢方について生き生きと楽しそうに話す姿だ。
「症状が良くなり、患者さんから喜ばれる。漢方診療をしていると、その機会が多いんです」
満面の笑みでそう言うと、「まだまだ、日々勉強です」と目を輝かせた。