円満に医局を辞める方法と、トラブル回避のための注意点

更新日:2022/04/13 公開日:2022/03/29

円満に医局を辞める方法とトラブル回避のための注意点

大学医局を辞めることは、医師のキャリアにおける大きな決断です。
法律では、2週間前に退職を申し出れば良いと定められています。しかし医師の世界は非常に狭く、辞め方によっては、その後のキャリアや人間関係にヒビが入る可能性があります。

そこで30代前半で退局した経験を持つ現役医師・べるもん先生に、円満に医局を辞めるための方法と注意点を解説してもらいました。
「退局トラブルを避けたい」という先生は、ぜひご覧ください。

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記事執筆
Dr.べるもん

30代外科系医師。入局後、複数の関連病院で勤務。2022年に医局を辞め、新天地での勤務を開始する。
自身の転職活動をもとに、医師のための転職成功ノウハウをブログで執筆中。

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医局を辞める前に、自分の気持ちと向き合う

私は卒後3年目で入局し、いくつかの関連病院で勤務してきました。
その間、「医局を辞めたい!」と思ったことは数知れず。紆余曲折を経て、無事に医局を辞めることができました。

退局する過程でやって良かったと思うのは、「自分にとって何が幸せか」を明らかにしておいたことです。いきなり行動に移していたら、後悔していたかもしれません。
みなさんもまずは、以下の3点をもとに自分の気持ちと向き合ってみましょう。

  1. 医局を辞める理由
  2. 医局を辞めるメリット
  3. 辞めるデメリットはないのか

私の体験を踏まえて、説明していきます。

1.医局を辞める理由

まずはどうして医局を辞めたいのか、退局後にどういう人生を歩きたいのかを整理します。
ただ「辞めたい!」だけで突き進んでしまうと、「こんなはずじゃなかった」と後悔し、むやみに転職を繰り返すなんてケースもあるからです。

私が医局を辞めたいと思った理由は、

  • 激務で、時間がない
  • 新しい世界で視野を広げたい
  • 給与が仕事量に見合っていない
  • 人間関係でストレスが多い
  • 雑務が多く、本来の仕事に集中できない

要は、「もっと自由に、もっと幸せになりたい」と思い、医局を辞める決意をしました。

大学病院や関連病院は、高度かつ最新の医療を行う使命を持っています。その分、長時間労働は免れません。自宅で過ごす時間よりも病院で過ごす時間の方が、圧倒的に長くなります。

「定時?なにそれおいしいの??」
医局員時代はブラック企業も真っ青な長時間労働でした。

志を持って進んだ医療の道ですが、激務に追われるうち、心が疲弊してくるのを感じました。民間病院は分業が進んでいるため、コメディカルができることはやってくれますが、大学病院では何かと医師(特に若手や研修医)に降ってくる雑務が多いです。「果たしてこれは自分がやるべき仕事なのだろうか」と、すさみがちに。

上司や同僚もみんな忙しいからか、職場は殺伐とした雰囲気で、人間関係の煩わしさから解放されたいと思うようになりました。

自分はなによりも家族が大切です。限りある時間を家族のため、自分の幸せのために使いたい。
そこで医局を辞め、仕事と家庭のバランスが取れる職場を探すことにしました。

医局を辞める前に、「自分にとって何が幸せか」を明らかにしておくと、どういう転職先を選ぶべきか見えてきます。

  • 当直をしたくない
  • プライベートの時間が欲しい
  • もっと稼ぎたい
  • 長期休暇を取りたい
  • 同じ施設で長く働きたい

どんな理由でもいいので、いきなり「辞める!」と行動に移す前に、気持ちを整理しておきましょう。

2.医局を辞めるメリット

辞めたいと思っている医局ですが、もちろん良いところもあります。医局でなければ、かなえられないことも多いです。

医局を辞めるメリットとデメリットを、あらかじめ理解しておきましょう。

メリット

  • 勤務条件や待遇が良くなる
  • 医局人事から解放される
  • 医局以外の交友関係が広がる
  • 「子育てしたい」「スキルアップしたい」など、自分の希望に合った勤務先を選べる

「自分のキャリアを自分で決められる」のが、医局を辞める最大のメリットだと思います。どこで、どうやって働くか。勤務日数や時間、給与など、希望の働き方に合わせて勤務先を選ぶことができます。

患者数の少ない医療機関だったり、当直・オンコールがなかったり、余裕を持って働ける勤務先は意外にあるものです。
転職活動をしてみると、「こんな世界があったのか」と視野が広がりますよ。

3.医局を辞めるデメリットはないのか

医局を辞めるデメリットはもちろんあります。

デメリット

  • 学位が取得できなくなる
  • 海外留学や研究が難しくなる
  • 最新の医療知識が得にくい
  • 専門性の高い医療に携わるのは難しい

専門性の高い医療や最新の医療に携わりたい、研究がしたいなど、学術的な活動をしたい場合は医局に属していたほうがしやすいでしょう。

大学病院や関連病院は最新かつ高度な医療提供体制が整っており、新しい機器や薬剤の情報も次々に入ってきます。その点、民間病院やクリニックでは自ら情報収集や勉強の機会を作っていかないと、古い知識で取り残されてしまうことも。

また、体調不良など自分に万が一のことがあった時に、医局員であれば他の施設から人を回してくれる可能性があるのも医局の長所です。自分一人しかいないような診療科・病院でこうした事態に陥ってしまうと、患者さんに多大な迷惑をかけてしまいます。それを医局でカバーしてもらえるのは、ありがたいことです。

医局を辞める最適なタイミングは?

医局を辞める最適なタイミングは?

「辞めたい時が辞め時」であることは間違いありません。
しかし計画的に円満退局を目指すのであれば、「医局に人が増えるタイミング」を狙うのがおすすめです。波風を立てずに辞めやすいタイミングです。

私は「年度末である3月に医局を辞め、4月から新しい勤務先に入職する」流れが最適だと思います。

では、退局を申し出るのはいつが良いでしょうか。

医局からすれば、退局=人的リソースの損失です。医局だけではなく、患者さんにも影響があります。急に中堅やベテラン医師がいなくなってしまっては、診療科の存続自体に関わることもあり得ます。
迷惑をかけないためにも、できるだけ早く伝えましょう。

通常、医局人事は秋に決まります。次年度の体制が決まる前に退局の意思を伝えておけば、医局側も人事を調整がしやすいです。患者さんの引き継ぎも余裕を持ってできます。

遅くても半年前、できるなら1年前に退局を申し出ましょう。

私自身は、こんなに早くは伝えられてはいませんが…

毎年、年度末のタイミングで退局する医師が多いことから、4月入職を見込んだ求人が常勤は夏~秋、非常勤は1月ごろから増えてきます。

多くの医療機関が新年度の半年前までに常勤を固め、その後に非常勤の体制を決めます。求人数そのものが多く、好条件にも恵まれやすいこのタイミングで転職活動ができるように準備しておきましょう。

早めに転職エージェントに登録して、どんな求人があるのか情報収集しておくのも良策です。求人情報を見る目が養われ、比較検討しやすくなります。

辞めるなら専門医を取得してから?

医局を辞めようか迷っている方の中には、「まだ専門医資格がない」という先生もいるのではないでしょうか。

論文の執筆や必要な症例が集めやすいなど、医局に所属していた方が専門医を取得しやすいのは確かです。専門医を取得してから医局を辞める、という医師が多いのも頷けます。

しかし専門医を取る前に医局を辞めても、プログラムを変更して研修を継続できるケースがあります。
そもそも、医局に所属せず市中病院の専門研修を選ぶ医師もいますしね。

専門医試験を受けるための要件、資格維持や指導医取得のための要件は科によっても異なります。入念に調べておきましょう。

どうやって切り出す?円満に医局を辞める方法と注意点

私が医局を辞めた時の流れと、トラブルを避けるために心がけた3つのポイントをお伝えします。

  1. 医局長、教授の順に退局の意思を伝える
  2. ポジティブな理由で、迷いを見せずに報告する
  3. 転職先を探しておく

1.医局長、教授の順に退局の意思を伝える

最初に誰に退局を伝えるかは、重要なポイントです。間違っても同僚に最初に伝えてはいけません。噂が広まって上司の耳に入ってしまうと、トラブルになりかねないからです。

私はまず、医局長に退局を伝えました。

  1. 医局長に伝える
  2. 医局秘書に連絡し、教授に時間を作ってもらう
  3. 教授に伝える

という手順です。

医局長に話す際、教授にはいつまでに伝えるべきか確認するのも良いでしょう。教授に先に言う方もいるようですが、まず医局長に伝えるのが一般的だと思います。

2.ポジティブな理由で、迷いを見せずに報告する

医局長や教授との面談時、辞める理由を必ず聞かれます。
「今の環境が不満なのか」「辞めたらどうするのか」など聞かれますので、納得してもらえる返答を準備しておきます。

人間関係や給与、勤務内容など不満が募って辞める方がほとんどだと思います。しかし本心はどうであれ、ネガティブな理由は避けましょう。

  • 結婚、育児、介護など家庭の事情
  • 開業する
  • 実家に戻る
  • 生活拠点を変える
  • 起業する
  • 転科する

こうした「自分自身の理由」であれば、「仕方がない」と受け入れられやすいです。
これまでお世話になった感謝の気持ちを添えて、誠実な態度で臨みましょう。

具体例
「将来の開業を見据えて、辞めさせていただきます」
「親の介護のため、地元に戻らなければならなくなりました」
「急ですが親のクリニックを継ぐことになりました」

反対に、「医局が原因」と思わせるような理由は控えたほうが無難です。
一例を挙げてみます。

  • 給与が安い
  • 勤務時間が長すぎて嫌になった
  • 美容や自由診療にいきたい
  • フリーランスになる
  • 人間関係が辛い
  • とにかく辞めたい

そして退局を告げる時に重要なのは、「相談」ではなく「決定事項」として報告することです。
「辞めたい」「辞めようと思っている」と言うと、「まだ退局を迷っている段階」とみなされ、強く慰留されてしまいます。勤務負担軽減のため異動になったり、外勤先を減らされたりした話を聞いたことがあります。

辞める決意が固まっているのであれば、「辞めます」や「転職先が決まりました」など、揺るぎない意思を伝えましょう。

3.転職先を探しておく

医局を離れるということは、自分で転職先を見つけ、自分のキャリアを決めなければいけません。それまで医局人事で動いていた身からすると、「どんな選択肢があるのか」「転職先が見つかるのか」不安になって当然です。

私もそうでした。知り合いの紹介や伝手で転職先を探す方法もありますが、私は転職エージェントを利用することにしました。
それまで医局に言われるがまま関連病院を渡り歩いてきましたが、いわゆる「転職活動」ははじめてです。自力で探すにも限界があるだろうと、第三者の力を借りることにしました。

転職エージェントに登録すると、まず面談があります。そこでこれまでのキャリアや希望条件、将来についても丁寧に話を聞いてもらえます。
ヒアリングをもとに、希望に近い求人をたくさん提案してくれました。自分だけで求人サイトを検索したり、知り合いを頼っていたら巡り合えないような求人ばかりです。

私はこの時点で「エージェントにお願いすれば、転職先は見つかるだろう」と安心しました。医局を離れた自分に働ける場所があるのか不安だったので、「辞めてもなんとかなる」と思えたことは、自信に繋がります。

転職活動は退局の申し出より前?後?

退局を申し出る前に転職先を探すかどうかは、意見が分かれるのではないでしょうか。 転職先を決めてから退局を申し出る方もいるでしょうし、逆の方もいます。

「勤務条件にこだわりたい」「次が決まるか不安」という方や、はじめて転職活動をする方は、上司に辞める話をする前に新しい勤務先を探し始めることをおすすめします。

勤務条件が細かくなればなるほど、転職活動は長期化する恐れがあります。また先に退局が決まってしまっていると、あせって納得のいかない転職先を選んでしまうなんてこともあるでしょう。

私自身、医局に辞意を伝える前に、民間医局に登録しました。そしてとても良い担当者と出会い、自分の気持ちを整理することができました。転職エージェントを利用して本当に良かったなと思っていますし、感謝しています。

医局を辞めた先には、新しい人生が待っている

礼節をわきまえて手順を踏むのが、円満退局の秘訣

退局交渉というと、引き留めに合うイメージが強いかもしれません。
しかしここまで説明してきたように、礼節をわきまえてきちんと手順を踏めば、案外スムーズに受け入れてもらえるものです。最近は何かあるとSNSですぐに噂が広まってしまうので、医局側もトラブルは避けたいのでしょう。

「惜しまれながらの円満退局」を実現するには、日ごろの勤務態度や、周囲との関係性も大切です。辛いことの多い医局員人生ではありますが、お世話になったことは間違いないのですから。

私たち医師の世界は、良くも悪くも非常に狭い世界です。退局によるトラブルを回避して、今後も良い関係でいられたら良いですね。
医局を辞めた先には、新しい人生が待っています。応援しています。

医局を辞めたい、
将来のキャリアに不安がある方の
ご相談を承ります。